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「自分の生きた証を、本という形で世に残したい」
「誰かに私の言葉を読んでほしい、認めてほしい」
そんなふうに思ったことはありませんか?
ブログやSNSで誰もが手軽に情報発信できる今の時代、
私たちの心の中には「自己顕示欲」という小さな火種が、
多かれ少なかれ眠っているのかもしれません。
今回ご紹介する本は、そんな私たちの心の隙間にスッと入り込んでくる、
ちょっとほろ苦くて、でも最高に痛快なお仕事小説です。
人間の見栄や欲深さをチクリと刺しながらも、どこか憎めない登場人物たち。
読むことで、自分の中にある「誰かに認められたい」
という気持ちと素直に向き合えるようになります。
人間の滑稽さや愛おしさに触れ、毎日を頑張る心が少し軽くなるはずです。
出版業界のタブーに切り込む痛快な物語

本を出版するって、どういうことなのでしょう。
華やかなイメージの裏側にある、ある種の「ビジネス」の姿がここには描かれています。
主人公の牛河原(うしがわら)は、丸栄社という出版社の敏腕編集長です。
彼は「本を出したい」という夢を持つ人たちに近づき、
言葉巧みに自費出版(作中ではジョイント・プレス方式と呼ばれます)を持ちかけます。
相手のプライドをくすぐり、天才だと褒めちぎり、高額な出版費用を引き出していく。
その手口は、見方によってはかなりあくどく、詐欺すれすれです。
でも、不思議と嫌悪感は抱きません。
むしろ、牛河原の話術の鮮やかさや、
人間の心理を読み取る鋭い観察眼にどんどん引き込まれてしまいます。
本が売れない時代に、いかにして出版社が利益を上げるのか。
そのからくりが赤裸々に語られ、
知られざる業界の裏側を覗き見しているようなワクワク感があります。

僕が本を書くとしたら
ワクワクする冒険モノにしようかな。
さまざまな「夢見る人たち」のリアルな心理
牛河原のターゲットになるのは、私たちのごく身近にいそうな人ばかり。
彼らの心理描写があまりにもリアルで、思わずドキッとしてしまいます。
ママ友たちの会話をレベルが低いと見下し、優越感から教育本を出そうとする主婦。
無駄な努力を嫌い、自分には特別な才能があると思い込んでいるフリーター。
承認欲求を持て余し、毎日ブログを更新し続けるブロガー。
定年後に自分の生きた証として自叙伝を残したい元議員。
彼らはみんな、「何者かになりたい」「特別扱いされたい」と強く願っています。
牛河原はその承認欲求を的確に突き、お金を出させます。
彼らがお金を払ってでも本を出したいのは、
純粋に「素晴らしい物語を届けたい」というよりも、
「本を出版した特別な自分」というステータスが欲しいからなのかもしれません。
それは、現代の私たちがSNSで「いいね!」を求める気持ちともどこか通じるものがあり、
痛いところを突かれているような、身につまされる思いがします。

自分の書く本は絶対売れるんじゃないかなって
思ってしまうのなんでなんだろう。
トラブルを次々と解決する圧倒的な手腕

編集長としての牛河原の魅力は、クレーム対応能力と、したたかな問題解決能力にあります。
丸栄社には、高額なお金を払って自費出版をした著者からのクレームも日常茶飯事です。
「全国の書店に並ぶはずだったのに置いてない」「費用が高すぎる」など、
一筋縄ではいかない相手ばかり。
そんな時でも牛河原は決して慌てません。
言葉巧みに相手の怒りをなだめ、時には相手の不満を「文化人としての誇り」にすり替えて、
見事にトラブルを収束させていきます。
その鮮やかな手口は、読んでいて拍手したくなるほどです。
中盤からは、丸栄社の半額で自費出版を請け負うライバル会社「狼煙舎」が登場します。
顧客を奪われピンチに陥る丸栄社ですが、
牛河原は狼煙舎が悪質な詐欺まがいの手法をとっていることを見抜きます。
そこからの反撃が本当に痛快なのです。
狼煙社に騙された顧客の怒りをうまくマスコミに繋げ、
自社は「文化を守る真面目な出版社」としてアピールする。
逆境をチャンスに変える頭の回転の速さに、思わず感心してしまいます。

これはビジネス書としても、
とても参考になるよ。
この本はこんな人におすすめです
人間の心理の裏側を覗いてみたい方へ。
クスッと笑えて、最後には温かい気持ちになれる一冊です。
・年齢層
20代の若者から、子育て中の世代、そしてシニア世代まで、
幅広い年代の方に楽しんでいただけます。
・こんな悩みや思いを持つ人に
「誰かに認められたい」「自分の生きた証を残したい」と密かに思っている人。
創作活動やブログ発信をしていて、評価されないことにもどかしさを感じている人。
世の中の裏側や、人間のちょっとブラックな本音を知りたい人。
・こんなシーン・気分のときに
毎日の仕事や人間関係に少し疲れて、スカッと痛快な物語を読みたい夜に。
通勤や通学の電車内で、人間観察を楽しむような気分で。
心が少しささくれ立っていて、人間の泥臭さに触れて安心したいときに。
・読後に得られる気づき・変化
人間の欲深さや見栄っ張りな部分を「しかたないよね、人間だもの」と
笑って許せるようになります。
自分の中にある「目立ちたい」「褒められたい」という気持ちを否定せず、
それも自然な感情だと受け入れられるようになります。
こちらもオススメです
出版業界の裏側や、本に関わる人たちのリアルな人間模様に興味を持った方には、
村山由佳さんの『PRIZE-プライズ-』もおすすめです。
『夢を売る男』が自費出版の世界をブラックユーモアたっぷりに描いているのに対し、
こちらは直木賞などの「文学賞」という栄誉に翻弄される作家や編集者たちの姿を、
生々しくも情熱的に描いた作品です。
承認欲求やプライド、そして書くことへの執念。
二つの作品をあわせて読むことで、
一冊の本が世に出るまでの背景にある「大人たちの熱いドラマ」がより立体的に感じられます。
ぜひこちらも覗いてみてください。
痛烈なブラックユーモア、なのに最後はホロリ
著者の百田尚樹さんご自身が小説家だからこそ書ける、出版業界への強烈な皮肉も見どころです。
第5章の「小説家の世界」では、牛河原の口を借りて、
現代の出版業界や作家の裏事情が次々と語られます。
小説家になりたい人は多いけれど、読む人は減っている。
だから出版社は「小説を出版する体験」を商売として売る。
辛辣な業界批判でありながら、ユーモアたっぷりでテンポが良いので、
重苦しさは一切ありません。
著者自身が作家という立場でありながら、
ここまで業界を面白おかしく書いてしまう思い切りの良さに圧倒されます。
そして特筆すべきは、物語の結末です。
散々ドライで冷徹なビジネスマンとして描かれてきた牛河原ですが、
最後の最後で、彼の「編集者としての矜持」や熱い人情味が垣間見える瞬間が訪れます。
利益にならないとわかっていても、本当に心に響いた原稿には全額会社負担で出版を決める。
ただの詐欺師まがいの男だと思っていた彼にこんな一面があったなんてと、
その見事なギャップに心が大きく揺さぶられます。

Kindleでも自費出版でも本を
出版できる時代になって驚きだよね。
読み終えたあとの私の思い
私はこの本を読み終えたとき、
主人公の牛河原をただただ「頼りになってかっこいい上司だな」と尊敬してしまいました。
私自身もこうしてブログを書いている身なので、
「自分の文章を誰かに読んでもらいたい」という自己顕示欲の強さは、痛いほどよくわかります。だからこそ、承認欲求を満たすために丸栄社のカモになっていく人たちの気持ちに、
深く共感しました。
牛河原のやり方は確かにあくどいかもしれません。
でも、大金を払った人たちを不思議と満足させ、
彼らの心の中にあった澱のようなものを浄化させてしまう、特別な魅力がありました。
もし私が彼に対峙したら、手口を知っていても気持ちよく乗せられてしまうだろうな、
と思いながら楽しみました。
皮肉とユーモアの連続で心がチクリとする場面もありましたが、
最後の最後でほっこりさせられ、
読み終わったあとは「読んでよかった」という満足感でいっぱいになりました。
人間の欲求と出版業界のリアルを鮮やかに切り取った、とても面白くて深い一冊でした。

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