1. 中国と日本のAI事情の違い
近年、人工知能(AI)の進化はめざましく、特に中国ではそのスピードが異常ともいえるほど速い。監視カメラや顔認証技術、AIによるビッグデータ解析など、人権やプライバシーを犠牲にしてでも技術を前進させている姿勢は、倫理観はともかくとして“成果”という意味では圧倒的だ。
一方の日本は、新しい技術への対応に慎重すぎる印象がある。法整備や国の動きが遅く、スタートアップ企業や研究者が思い切った開発を行いにくい環境にある。今回紹介する小説では、そんな日本のAIベンチャーが舞台となり、自動運転車の暴走事故をきっかけに物語が動き出す。
2. あらすじ:自動運転車の暴走と事件の真相
物語は、自動運転のテスト中に起きたある“異常”な事故から始まる。突然、車が人に向かって暴走したのだ。
この事件の真相を追うため、AIベンチャー企業に勤める主人公・新谷凱(しんたに がい)が捜査に協力することになる。プロローグでは衝撃的な事件が描かれるが、そこからは主人公の生い立ちや過去に焦点が移り、彼の苦難に満ちた人生が描かれていく。
真相が明らかになるのは、物語の後半。新谷が大学時代の恩師が立ち上げた会社に入社し、警察と連携して事件の核心に迫っていく。読者としてはAIと開発者たちの熱いバトルを期待するかもしれないが、そこは少々肩透かしな部分もある。
3. 読後の感想:面白いが、もう少し踏み込んでほしかった
文体は読みやすく、テンポも悪くない。技術に関する専門用語も難解すぎず、テクノロジー初心者でも問題なく読める構成になっている点は好印象だ。
ただ、個人的にはテーマの重さや奥行きに対して、もう一歩踏み込んでほしかったという思いが残る。倫理観や哲学的な視点での葛藤、AIと人間の共存についての掘り下げが浅く感じられた。
4. AIの進化とその恐怖
私たちはすでにAIに依存している。スマートフォンの予測変換、レコメンド機能、カーナビ、スマートスピーカー……日常のあらゆる場面でAIに囲まれている。
しかし、その進化のスピードには恐怖すら覚える。ロボット三原則という“守るべきルール”はあるが、すでにその安全リミッターを外したAIが存在するのでは?と疑ってしまうほどだ。
この小説でも、自動運転車が“意図的に”暴走した可能性が示唆される。もしそうだとすれば、AIは誰が責任を取るのか? どこまでがプログラムで、どこからが人間の命令なのか? そうした問いが、じわじわと胸に残る。
5. 倫理観は国によって違う。AIにも文化が宿る?
AIは人間が作ったものである以上、そこには“人間の価値観”がプログラムとして組み込まれている。つまり、命令する人間がどこの国の文化背景を持っているかによって、AIの行動原理は変わる。
この作品では、日本の慎重な姿勢と中国の攻めの開発スタイルの違いが背景にあり、それが事件の構造にも反映されているように感じられる。倫理観のズレが、AIの判断にもズレをもたらすのだ。
6. まとめ:AIと人間は本当に共存できるのか?
この小説を読んで感じたのは、AIがもたらす未来への期待と同時に抱く、拭いきれない不安だ。テクノロジーは私たちの生活を便利にする一方で、時に制御不能な存在になり得る。
物語としては、もう少し刺激的な展開を期待していたが、AIに関心がある人やテクノロジーの未来に不安と期待を抱いている人には、一読の価値がある。
AIはすでに私たちの隣にいる。そして、これからますます深く関わってくる。その時、私たちは何を信じ、どう選択していくべきなのか――この作品は、そんなことを考えさせてくれる。
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