『だから荒野』読了レビュー|46歳専業主婦の家出が突き刺さる!共感とスカッと感の物語

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46歳の誕生日。専業主婦・森村朋美は、自ら新宿のレストランを予約し、家族とのささやかなひとときを楽しみにしていた。しかし、家を出る前から雲行きは怪しい。高校生の次男は「行かない」と不機嫌にごね、夫と大学生の長男は「お酒を飲みたいから運転して」と言い出す始末。化粧や服装にまで文句をつけられ、結局、運転させられた朋美。レストランでも「まずい」と文句ばかり。彼らの態度に耐えきれず、朋美はその場を飛び出し、そのまま家出を決行する。

1. 思いつきの家出と旅先での出会い

行き先は長崎。かつての恋人が住んでいる町。無計画のまま車で向かうが、途中で車を盗まれるというアクシデントに見舞われる。仕方なくヒッチハイクを始め、乗せてくれた老人としばらく一緒に暮らすことになる。料理も家事もできない朋美に対し、老人は何も言わず受け入れてくれる。そんな彼の優しさに触れながら、朋美は少しずつ自分の輪郭を取り戻していく。

彼女はそれまで「家族のため」にすべてを捧げてきた。しかし、その“家族”に感謝されることも、認められることもなかった。旅の途中でふと見上げた海や空の広さが、今まで感じることのなかった「自由」を教えてくれる。自分の気持ちを大切にすることの意味を、朋美はようやく実感し始めるのだった。

2. 家庭崩壊のリアルな描写

朋美の家族は、表面上は“普通”の4人家族。しかし、実際は崩壊寸前だった。夫は仕事一筋で家庭を省みず、家事は完全放棄。釣った魚に餌をやらない典型例だ。長男は彼女の家に入り浸り、次男は部屋に引きこもってゲーム三昧。家庭内のコミュニケーションは希薄で、感謝も思いやりもない。そんな中で、主婦として家族に尽くしてきた朋美が限界を迎えるのは、ごく自然な流れだった。

専業主婦という立場は、「存在して当たり前」だと見なされがち。食事の準備、掃除、洗濯、家族の感情の調整役。誰も言葉にはしないけれど、その役割がいかに重たいか。朋美のように、何年も積もり積もってきた小さな怒りや悲しみが、ある日突然爆発するのは無理もない。

3. 夫・浩光の視点が描く“不器用な男”

物語は朋美の視点だけでなく、夫・浩光の視点も交互に描かれる。彼は、典型的な“自分が正しい”と思い込むタイプ。ナルシスト気質で、家事や育児は妻の仕事だと決めつけている。しかし彼もまた、朋美の不在によって「家庭の重み」に気づき始める。浩光の変化は微々たるものだが、彼なりの葛藤と後悔が描かれていて、単なる悪役では終わらないところが巧妙だ。

「家族って、そんなに簡単に壊れるものなのか?」という夫の戸惑いは、ある意味で読者自身の問いにもなる。壊れて初めて気づく大切さ。けれど、それは元通りには戻らない。そこに、夫婦という関係の儚さと現実がある。

4. 家出は逃避か、それとも再出発か

朋美の家出は、単なる現実逃避ではない。自分がこれまで何に耐えてきたのか、これから何を望むのかを見つめ直す旅でもある。旅の途中でのトラブルや出会いは、朋美にとって試練であり、癒しでもあった。自分の人生を取り戻すために必要な“荒野”だったとも言える。

誰かの妻や母ではない「私」として、自分の人生を生きたいという思い。それは専業主婦という立場で埋もれていた「個」の再発見でもある。誰もが一度は「すべてを投げ出してどこかへ行きたい」と思ったことがあるはず。その感情に真っ向から向き合った朋美に、読者は拍手を送りたくなる。

5. 読後感:共感と余韻

読み終えたあと、心に残るのは「こんな家族、あるよね」という共感と、「もう少し家族を大切にしよう」という余韻。家族とは、甘えが許される分だけ、摩擦も大きい。『だから荒野』は、その摩擦の中にある小さな愛情や、気づきのきっかけを静かに伝えてくる。

6. 文章のスピード感と読みやすさ

桐野夏生さんの筆致はテンポがよく、無駄がない。ストーリー展開も早く、一気に読めてしまう。感情の揺れや心の声が繊細に描かれており、読者は自然と朋美の視点に引き込まれる。淡々としていながらも、登場人物の心理が丁寧に描かれており、読み手の感情に深く刺さる。

7. こんな人におすすめ

  • 家族にモヤモヤしている主婦の方
  • モラハラ夫や無関心な家族に疲れている人
  • 自分の人生を考え直したいと思っている方
  • 日常から一歩踏み出したいと感じている方

『だから荒野』は、専業主婦という立場で生きる一人の女性が、自分を取り戻すまでの物語です。読後、タイトルの意味を改めて噛み締めることになるでしょう。人生の沃野を目指すすべての人に読んでほしい一冊です。

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