AIに裁かれる未来が怖い…そんな不安を整理できる小説──『有罪、とAIは告げた』を読んで

「『有罪、とAIは告げた』のテーマを象徴する裁判と人工知能の対立」 中山七里

【読了感想】『有罪、とAIは告げた』──AI裁判官と人間の正義の境界を考える

1. AI裁判官がもたらす未来とは?

AIが司法の現場に導入される──そんな未来はもうすぐそこまで来ています。『有罪、とAIは告げた』では、中国との技術交流の一環として、東京高裁にAI裁判官のソフトウェア「法神2」が試験導入されるところから物語が始まります。

このAIは過去の判例を学習し、裁判官と同じ論理的思考や知見を再現。判決文を一瞬で生成し、その内容は裁判官が書くものと遜色ないというほどの精度を持ちます。

しかし、私たちは本当に機械に”正義”を委ねられるのでしょうか?

2. 便利さと恐ろしさが背中合わせの時代

AI技術は目覚ましい進化を遂げています。ChatGPTのように文章を自在に生成したり、画像や映像を瞬時に作ったり。便利さを享受できる反面、そのスピードと精度の高さに恐怖すら感じることもあるでしょう。

司法の現場でも同じです。裁判官の業務は過密で、資料作成や事務処理に追われる毎日。そこにAIが導入されれば、業務の効率化は飛躍的に進むでしょう。

しかし、判断までAIに委ねるとなると話は別。特に人命が関わる殺人事件などでは、単純に過去のデータを元に結論を出すわけにはいきません。そこには人間ならではの「情」や「思いやり」、そして「悩み抜く時間」が必要なはずです。

3. AIが裁く”正義”は本当に公正か?

主人公の円が任命されたのは、AI裁判官「法神2」の性能検証。円が〈法神〉に過去の裁判記録を入力すると、出力された判決文は裁判官のものと完全一致。日本中の裁判官たちは、業務の軽減に歓喜します。

しかし円は懐疑的です。

「罪は数値化できるのか?」「裁判官の経験は本当にデータ化できるのか?」──そうした問いが物語を通して突きつけられます。

確かにAIはゼロか100かを判断するのは得意でしょう。でも、更生の余地を見て減刑したり、被告の心の叫びに耳を傾けたりする温情判決は、AIにできるのでしょうか?

4. 人間だからこそ抱く葛藤と時間

AIで「ポチッ」とボタン一つで判決が出る時代──それは効率的かもしれません。しかし、「その命に向き合うための時間」や「裁く側の苦悩」を失ってはいけないのではないでしょうか。

特に死刑判決では、遺族の感情や被告の更生可能性、事件の背景など、多面的な判断が求められます。そういった微妙なバランスを、機械が公平に扱えるのでしょうか。

人間は悩むからこそ、時間をかけて判断を下す。そのプロセスこそが、正義の本質に近づく行為なのではないか──そう問いかけてくる一冊でした。

5. 技術の進歩と倫理のバランス

AIの技術進化は止まりません。私たちはその恩恵を受ける一方で、どこまで委ねるか、どこで人間が立ち止まるべきかを考え続ける必要があります。

便利さは魅力的です。けれど、便利すぎる世界にはリスクもついて回ります。本書は、AIが司法の一部を担うことが現実となりつつある今だからこそ、一人ひとりに「何を人間の手に残すべきか」を問いかけてくる力強いメッセージを持った作品です。

AIと人間の境界が曖昧になっていく現代において、自分の中の”不安”や”モヤモヤ”に言葉を与えてくれる──そんな一冊でした。

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有罪、とAIは告げた
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