1. 山一證券の破綻と「しんがり」の12人
1997年、日本の四大証券の一角を占めていた山一證券が、自主廃業を発表。これは戦後最大級の経営破綻として、平成の重大ニュースのひとつに数えられている。その裏で、世間に知られることなく会社に残り、清算と真相究明に取り組んだ12人の社員がいた――彼らは「しんがり」と呼ばれた。
無報酬で働きながらも、「何が起きたのかを明らかにしたい」という一心で真実を追った彼らの姿は、まさに誠実の極み。倒産の原因となった損失隠しや事なかれ主義の連鎖、その過程で生まれた簿外債務。彼らが行った社内調査によって、巨大組織がいかにして自滅していったかが明らかにされる。
2. なぜ会社は怪物になるのか？
「会社は怪物のようだ」と語る人は多い。しかしその怪物を生み出すのは、トップの私利私欲、そしてそれに異を唱えない幹部たちだ。出世のために数字を上げることに執着し、問題を先送りする文化。山一證券では、そうした体質が積もりに積もり、ある時一気に破裂した。
現場で真面目に働いていた社員の多くは、破綻の原因すら知らされず、資産を失い、人生が狂わされた。持ち株制度で老後資金を預けていた人たちは紙くずとなった株券を手に絶望するしかなかった。
3. 読後に突きつけられる「自分ならどうするか」
この本の最大の問いは、「あなたなら、あの状況で残れるか？」ということだ。
明日の生活も保証されず、無報酬で、顧客から罵倒されながらも、会社の後始末に向き合う勇気を持てるか？
答えは簡単ではない。しかし12人の社員は、それをやり遂げた。華々しい肩書きを持つ経営陣ではなく、陰で支えた無名の現場社員たちの奮闘こそが、最後の砦だった。
4. 現代の企業に通じる「警鐘」
この物語は、過去の話でありながら、今も色あせない。
企業倫理、ガバナンス、リーダーシップ。山一證券で起きたことは、今の日本企業でも起こりうる。特に組織の一部で問題が起きた時、それがいかに連鎖的に広がり、組織全体をむしばむのか。本書はそのプロセスを克明に描き出している。
大企業で働いている人、会社に違和感を抱えている人、会社に尽くす意味を見失いかけている人にとって、本書は大きな気づきを与えてくれるだろう。
5. なぜ今『しんがり』を読むべきなのか？
バブル崩壊の象徴とも言える山一證券の破綻劇。その裏で行われていた12人の”撤退戦”を知ることで、私たちは会社とは何か、働くとはどういうことかを再定義する機会を得る。
「会社とは何か」を考えたい全てのビジネスパーソンへ――組織に違和感を抱える人、大企業で働く人、現場の声に共感できる人、そして山一證券の破綻を知らない若い世代まで、今読むべき一冊。
組織の在り方に迷いを感じているときや、リーダーシップ・企業倫理を見つめ直したいとき、そして心を動かすリアルな物語に出会いたいときに、ぜひ手に取ってほしい。
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