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異世界で心を奪われた|読後、放心した『レーエンデ国物語』感想レビュー

多崎礼『レーエンデ国物語』の表紙。幻想的な森の中にたたずむ白い鹿と、水中に浮かぶクジラのような生き物が描かれ、神秘的な異世界ファンタジーの世界観を象徴するビジュアル。 多崎礼

「読んだあと、何も手につかなくなる本に出会いたい」――そんな気持ちに応えてくれるのが、多崎礼さんの『レーエンデ国物語』です。

政略結婚から逃げ出した貴族の娘・ユリア。
彼女は英雄と称えられる父・ヘクトルとともに、銀呪病が蔓延する地――レーエンデへと向かいます。
案内役を務めるのは、かつてヘクトルと戦場を共にした元弓兵・トリスタン。彼はすでにこの地に暮らし、静かに命を削られていました。

目的は、シュライヴァとレーエンデを結ぶ交易路の開拓。
しかし、旅の先で彼らを待っていたのは、言葉を失うほどの美しさと、抗いようのない運命の連続でした。

幻想的で切なく、読み進めるほどに胸が締めつけられる――
それでも目が離せない。これは、そんな物語です。


1. 物語の深部へ|ただの「交易路建設」ではない

物語は、父と娘が“道”を作る旅から始まります。けれど、その裏にあるのは、村人に忌み嫌われる風土病・銀呪病、伝承に縛られた不安、密輸団との対立、そして命の選択。

彼らの目的はやがて、“国と国”ではなく“心と心”をつなぐ旅へと変わっていきます。信じること、赦すこと、託すこと。どれも簡単ではないけれど、その一歩が「道」になるというメッセージが静かに響きます。


2. 心に刻まれる情景と演出

満月の夜に浮かび上がる幻の海、森にたたずむ白鹿、水の中を舞うクジラのような生き物。

どれもが目を奪われる美しさで描かれ、脳内に映像が広がっていきます。その幻想的な描写と裏腹に、登場人物たちは深い葛藤や恐怖、喪失に晒されていきます。

文章を読むだけで、光と影が交差するような空気を感じる。映像化されていないことが、むしろ想像力を最大限に引き出してくれるのです。


3. ユリア、ヘクトル、トリスタン――三人の絆

  • ユリアは、無垢さと芯の強さを併せ持つ少女。やがて母になり、逃げずに選択していく姿に勇気をもらいます。
  • ヘクトルは、豪放な英雄でありながら、娘と仲間のために不器用に愛を示す父。彼の変化は、親子の距離感に悩む読者にも刺さるでしょう。
  • トリスタンは、静かに人生を終えようとする青年。しかし、彼の一途な思いはユリアの心を揺らし、物語全体に深い陰影を落とします。

彼らの関係性は、言葉にせずとも伝わる“情”が詰まっていて、読者の心をそっと掴んで離しません。


4. 村の狂気と、静かな祈り

『レーエンデ国物語』は、幻想的な世界のなかに、現実社会にも通じるテーマを忍ばせています。

伝承が偏見になり、やがて暴力に変わる――それは決して遠い国の話ではありません。ユリアをかばったトリスタンが追放される場面や、かつての隣人たちが襲いかかる描写には、言葉を失うようなリアルさがあります。

けれど、その中でも誰かが誰かの手を握る場面がある。そこにこそ、読者の心が救われるのです。


5. 読後に残るのは、問いと灯り

この物語は“答え”をくれるわけではありません。でも、確実に“問い”を残してくれます。

「もし自分だったら、誰かを守れただろうか」 「奪われると知っていても、希望を選べるだろうか」

ユリアが命を懸けて守ろうとした子ども・エールデ。その存在に、読者もまた何かを託したくなる。誰かの未来のために、ほんの少しでも希望をつなぎたくなる。そんな、静かな灯が胸にともる読書体験です。


6. だから、あなたにも読んでほしい

これは、ただの異世界ファンタジーではありません。

  • ファンタジーが苦手な人にも伝わる物語
  • 読んだあと、心が温かくも切なくなる物語
  • 誰かを守りたいと願ったことがある人へ贈る物語

『レーエンデ国物語』は、あなたの中にある“まだ名前のない感情”に静かに触れてくれるはずです。読書が好きな人はもちろん、今何かに迷っている人、誰かのために強くなりたいと思っている人にこそ読んでほしい。


7. さいごに|物語に“帰る”という感覚

本を閉じたあと、放心するほどの読書体験。けれど、心のどこかでは「またレーエンデに帰りたい」と思っている自分がいる。

シリーズ続刊があると知った時の、嬉しさと切なさ。そして、これからもずっとこの世界と繋がっていたいという願い。そんな感覚が、この一冊に詰まっています。

どうか、あなたもこの旅を歩いてください。レーエンデという異世界が、あなたの心にとっての「現実」になるかもしれません。


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