読むだけで「人を助けたくなる」気持ちが芽生える
『夜が明ける』感想レビュー
子どもの貧困やネグレクト、ジェンダー、売春、ブラック企業、奨学金……現代日本が抱える多くの問題をリアルに描き出した一作。
「自己責任」という言葉の怖さを知り、誰かに頼ってもいいんだと気づかせてくれる。
「夜は明ける」その一言が、苦しみに光を射す力になる。
アキと「俺」、ふたりの人生が交差しないまま進む構図が切ない
この小説の面白さは、俳優を目指す「アキ」と、テレビ業界で働く「俺」のふたりの人生が交互に描かれながらも、交わらないところにあります。それぞれが過酷な環境に身を置きながらも、助け合うでもなく、ただ生きる。たとえば、俺が深夜まで続くAD業務に心身ともに削られていく描写。いかにも華やかに見えるテレビ業界の裏側に潜むブラックさが、リアルに伝わってきて胸が締めつけられました。
「自己責任」って本当にそうだろうか?という問いかけ
作中、何度も「努力すれば報われる」「頑張らないのは甘え」といった空気が登場人物たちを追い詰めます。特に印象的だったのは、アキが劇団の中でじわじわと避けられていく描写。吃音や外見など、本人のせいではない要素が社会で不利に働いてしまう現実を突きつけられました。そして、ラスト近くで語られる「自己責任」という言葉への違和感。誰もが無意識に口にしてしまうこの言葉が、救われるべき誰かを突き放してしまっているのかもしれない——そう思わずにはいられませんでした。
光が見えないのに、なぜか読めてしまう理由
正直、読んでいて心が重くなりました。貧困、虐待、過労、孤独……救いがなく、どこまでも暗い。それでもページを閉じることができなかったのは、「夜は明ける」という希望の光がずっと背後にあったからかもしれません。たとえば、俺が心身の限界を迎えたとき、周囲に助けを求められるようになる描写は、「誰かを頼ってもいい」という社会への希望が感じられて印象に残りました。
「夜が明ける」ことを信じたくなる物語
自分の努力が足りなかったから……と自分を責めてしまう人にこそ、読んでほしい一冊です。生きづらさを感じているすべての人に、「夜は当たり前に明けるものだ」と優しく語りかけてくれる、そんな物語でした。
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