3745003

小川哲が描く“嘘と虚構の境界線”――承認欲求の果てを見つめて

小川哲『君が手にするはずだった◯◯について』書影。本屋大賞ノミネート作 小川哲

この本から得られるもの

  • 承認欲求の正体を考えるきっかけ
    「何ものかになりたい」と願う気持ちは誰にでもある。その成れの果てを見つめることで、自分自身の欲望を客観視できます。
  • フィクションと現実の境界線を揺さぶられる体験
    嘘と物語の違いは何か。小説を書くことは詐欺と同じなのか。そんな根源的な問いを楽しめます。
  • 小説家という職業の不思議さ
    嘘を誠実に語る仕事とはどんなものか。その矛盾に心をつかまれます。
  • 自分の生き方を振り返る視点
    「理想の自分と現実の自分、その間で折り合えているのか?」――読後、自然と自分に問いかけたくなる一冊です。

どんな本?

小川哲さんの短編集『君が手にするはずだった黄金について』は、6編からなる作品集です。
読んでいると「これは小説なのか、エッセイなのか?」と迷う瞬間がたびたび訪れます。なぜなら主人公の「僕」が作者自身をモデルにしているから。

出てくるのは同級生、恋人、仕事相手、そして怪しい占い師や承認欲求に振り回される人物たち。彼らはどこか滑稽で、同時に現実の私たちの姿と重なって見えます。

フィクションでありながら、妙にリアル。
リアルだけど、どこか嘘っぽい。
その絶妙なバランスが、この作品を独特な読後感にしています。


誰におすすめか

  • 20代後半~40代の社会人
    「なぜ働くのか」「自分は何者なのか」と迷い始める年代に特に刺さります。
  • SNSやネットの虚構に疲れている人
    盛られたプロフィールや“映え”にうんざりしている方には、考えさせられるテーマ。
  • 純文学が少し難しいと感じてきた人
    難解に見えて、読み進めると「身近な人間模様の話」へとつながっていきます。
  • 作家志望・クリエイター気質の人
    「嘘と創作の境界」に真正面から挑む内容は、創作活動をする人にはたまらない刺激です。

👉 小川哲『君のクイズ』こちらの作品もオススメです。


どんなシーンで読みたいか

  • 夜の静かなひとり時間に
    内省を促す内容なので、周りに気を取られない夜がベスト。
  • 仕事や人生に迷っているときに
    就活・転職・人間関係…「なぜそれをするのか?」という問いに向き合えます。
  • SNSやニュースで“虚構”を感じたとき
    フェイクニュースや炎上に疲れた心に、不思議と寄り添ってくれるはず。

各短編の魅力

君が手にするはずだった黄金についてのイメージ写真

◆「プロローグ」

学生時代からの知り合い・美梨との交流を軸に描かれる序章。
就職活動の「人生を円グラフで表せ」という問いに答えられない「僕」は、社会の枠組みに馴染めない自分に戸惑います。
そんな彼に、美梨が「小説を書けばいい」と告げる場面は象徴的です。
小説とは、現実に居場所を持てない人間にとって「唯一の正直な手段」なのだと気づかされる。
ここには全編を通じて繰り返されるテーマ――「何者かになりたい欲望」と「虚構と現実の境界線」が凝縮されています。

◆「三月十日」

震災の“前日”の記憶は曖昧なのに、当日のことは誰もが覚えている。この「一見くだらない雑談」を膨らませて物語にしてしまう力量に唸らされます。

◆「小説家の鏡」

占い師に挑む小説家。嘘を語る占い師と、作り話をする小説家はどこが違うのか――という逆説的な問いが面白い。

◆「君が手にするはずだった黄金について」

SNSで承認欲求を肥大化させた同級生の転落劇。虚構を積み重ねてでも「何者か」になりたい人間の滑稽さと哀しさが描かれます。

◆「偽物」

偽ブランド時計をつける漫画家とのやりとりを通して、「本物とは何か?」を問う物語。人の話を盗んで漫画にする人物の姿に、創作の本質が浮かび上がります。

◆「受賞エッセイ」

小説家として賞を受ける意味、誇らしさと戸惑いが同居する自分の感情。その葛藤が赤裸々に描かれ、作家という職業の「普通じゃなさ」を突きつけます。


読後に得られる気づき

黄金のイメージ写真
  1. 承認欲求は誰にでもあるが、行き過ぎると人生を狂わせる
    SNSの世界と地続きのテーマで、現代に強く響きます。
  2. 嘘と創作は紙一重
    小説もまた「虚構」を積み上げる行為。詐欺や偽物とどう違うのか?という問いにゾッとさせられる。
  3. “何ものでもない自分”と折り合えるかが大事
    理想の自分と現実の自分――その折り合いをどうつけるかがテーマにあります
  4. 小説家は“偽物の黄金”を追う生き物
    虚構の中に真実を探し続ける――それが小説家という生き物

この本の読みやすさ

最初は「頭がいい人の小難しい文章かな?」と身構えるかもしれません。ですが、不思議と読み進めるうちに慣れ、気づけばどんどん引き込まれていきます。

そして読後には、「あれ、これは小説?エッセイ?日記?」とジャンルを超えた不思議な余韻が残ります。これは小川哲さんならではの魅力。


他の本と違うポイント

  • 普通の小説よりもリアルに感じる
    実在の同級生や経験がベースになっているからこその生々しさ。
  • エッセイよりも刺激的
    嘘と虚構を混ぜ合わせる構成が「読んだことのない読書体験」を与えてくれます。
  • 現代社会とのつながり
    SNS・承認欲求・フェイクニュースといったテーマは、私たちの生活そのもの。

読後の余韻と問い

読後に残るのは「理想の自分と現実の自分、その間で折り合えているのか?」という問い。

SNSで誰かと比べて落ち込むこともあるし、「もっと認められたい」と心がざわつくこともある。そんな自分を見つめ直すきっかけを与えてくれる一冊です。

そして気づくのです。
小説家とは、嘘を誠実に語り、偽物の黄金を追い続ける存在なのかもしれない、と。


まとめ

『君が手にするはずだった黄金について』は、

  • 承認欲求に振り回される人間の姿
  • 嘘と創作の紙一重な関係
  • 小説家という職業の本質

を描いた短編集です。

難しそうに見えて、実はとても人間くさい物語。普通の小説では味わえない“読後のざらつき”が、きっとあなたの心にも残るはずです。

👉 「自分は何者か?」と悩んだことがある人には特におすすめ。
読んでみれば、自分の生き方を見つめ直すヒントが必ず見つかります。


📖 次の読書に迷っている方へ。
小川哲『君が手にするはずだった黄金について』は、「嘘と承認欲求」という普遍的テーマを突きつけてくる一冊です。
ぜひ、あなた自身の“黄金”を探しにページを開いてみてください。


気になった方はこちらからチェックしてみてください。

『君が手にするはずだった黄金について』は各ストアで詳しく見られます!

君が手にするはずだった黄金について
created by Rinker


読書の時間が取りにくい方には、耳で楽しめる「Audible」もおすすめです。
通勤中や家事の合間に聴けるので、意外と読書が身近になりますよ。
Audibleを30日無料で試してみる

コメント

タイトルとURLをコピーしました