1. 小説『マンダラチャート』とは?
「もし、あの時の自分に今の考えを伝えられたら──あなたは人生を変えたいと思いますか?」
垣谷美雨さんの小説『マンダラチャート』は、63歳の主婦・北園雅美が、人生や社会への違和感を抱えながらも、自らのマンダラチャートをきっかけに“昭和”へタイムスリップし、14歳から人生をやり直すという物語です。
男女格差や社会的な常識に疑問を抱きながら、それでも変えられなかった日々。そんな彼女が、1973年という時代に戻り、もう一度自分の手で未来を選ぼうとする姿が描かれます。
マンダラチャートとは、大谷翔平選手も目標達成に活用していることで話題になった目標管理のツール。それを自分なりに書いていた主人公が、思いもよらぬタイムスリップを体験する──というユニークな展開が本作の魅力のひとつです。
2. あらすじと見どころ
雅美は日々、夫のモラハラや家族の無理解に悩まされていました。長年主婦として家庭を支えてきたものの、感謝されるどころか軽んじられる日々。ある日、大谷翔平選手のマンダラチャートを真似て、「男女平等な社会」「モラハラのない世界」「変なCMをなくす」といった項目を書いてみたところ、突然目が回り、気づけば中学2年生の自分に戻っていたのです。
そこは、ジェンダー差別が当たり前だった1973年。家事に追われる母、進学を認めない父、進路を制限される女子──今では考えられない価値観が当たり前に存在する世界でした。スマホもネットもない、情報が限られた時代。そんな中で、令和の感覚を持ったまま暮らしていくことの難しさと、違和感の正体に直面していく様子が丁寧に描かれます。
同じく令和からタイムスリップしてきたクラスメイト・天ヶ瀬と出会い、ふたりは交換日記を通じて支え合いながら、それぞれの未来を見つけていきます。初恋相手でもある彼と、時を超えて再び関係を築いていく過程も、この物語の大きな軸です。
3. 昭和の理不尽な現実と向き合う
読者が特に共感するであろうのは、昭和という時代のリアルです。
- 女性の大学進学に対する強い反対
- 成績優秀でもお茶くみ要員にされる就職先
- 痴漢被害や性別による差別発言が日常茶飯事
- 結婚=寿退社が当然という社会的圧力
- 親の価値観に逆らえない家庭環境
スマホもSNSもなく、声を上げる手段すらない。そんな理不尽な環境に「今から見ればあり得ない」と思いながらも、当時はそれが普通だった──という気づきが突き刺さります。社会の不合理さに目を向ける視点を持てたのは、主人公が60年以上生きた経験を持ち込んでいるからこそ。過去を「懐かしい」と思うだけではなく、「おかしかった」と気づけることが、本作の核心なのです。
4. 女性として“働く”ことの難しさ
雅美は、建築の道を志しますが、女性というだけで仕事を任せてもらえない現実にぶつかります。進学に猛反対する両親、大学での男性中心の空気感、工務店での“息子の嫁候補”としての扱い──どれもが夢を阻もうとしてきます。
それでも「強くなる」と決めて護身術を習い、努力を重ねていく彼女の姿勢には、多くの読者が背中を押されることでしょう。建築に関わるチャンスを探しながら、ようやく出会った小さな住宅メーカーで就職が決まり、仕事を通して自立の道を歩み出します。
しかしそこで直面するのは、今度は学歴差別や女性同士の競争、暗黙のルールなど、別の「女の世界」。決して楽な道ではなく、それでも「自分で決めて進む」ことを選んだ彼女は、かつての人生とは違う未来を築いていきます。
5. 天ヶ瀬との交流と人生の選択
令和から来た天ヶ瀬も、かつては家庭のために自分を犠牲にする人生を歩んでいました。中学生に戻ったことで人生をやり直すチャンスを得た彼もまた、「本当に自分の幸せとは何か」を考え直すようになります。
ふたりは、同じ時代から来た者同士として深く理解し合い、昭和という価値観に孤独を感じながらも、支え合って歩んできました。進学や就職、日々の苦悩のなかで言葉を交わしながら、共有する思いがふたりの絆を育てていきます。
高校卒業後はいったん距離ができたものの、大学時代にもつながりを持ち続け、それぞれの未来に向かって努力を重ねていきます。ある日、ライブ会場で若い頃の妻と出会った天ヶ瀬は、過去の結婚生活と向き合い、自らの生き方を見つめ直す決意を固めていきます。
そして雅美も、再びマンダラチャートに向き合いながら、自分が本当に求めていた未来や生き方を見つめ直します。その決意は、彼女にとって新たな一歩を踏み出す大きな転機となっていきます。
6. 今の社会に通じる問題提起
本作のテーマは、単なる「過去の振り返り」ではありません。
「男だから/女だから」 「家族のために我慢するのが当然」 「社会の常識に従うべき」
──こうした考え方が、今も形を変えて根強く残っていることに改めて気づかされます。
雅美の視点を通して、働く女性として、母として、ひとりの人間として「自分の人生を生きる」ということの難しさと向き合わされるのです。
それでも前を向きたいと思ったとき、この物語はそっと手を差し伸べてくれるような力があります。
7. こんな人におすすめ
- 昭和の社会を知る中高年の女性
- ジェンダーギャップに違和感を感じている人
- モラハラや家庭内の不平等に悩んでいる人
- 自分の人生をもう一度考え直したい人
- 過去の自分と向き合い、未来を切り拓きたい人
特に、今の社会にモヤモヤしている人や、自分らしく働くことに悩んでいる人には刺さる一冊です。読後、もう一度自分のマンダラチャートを書きたくなるかもしれません。
8. まとめ|人生は、自分で決めていい
『マンダラチャート』は、63歳の主婦が過去に戻ることで、昭和の価値観と闘いながら自分の道を切り開く物語です。
状況に振り回されるのではなく、自分の意思で人生を選び取る──その大切さを静かに、でも力強く教えてくれます。
「報われないかもしれないけれど、それでも私は私をあきらめない」
そんな前向きな力をもらえる一冊でした。ジェンダーに関わる悩みや、自分の生き方に迷いを感じているときに、ぜひ手に取ってほしい作品です。
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