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『逃亡犯とゆびきり』感想と考察|家庭の闇と人間の心理を描く社会派サスペンス小説

「逃亡犯とゆびきり」を象徴するような、制服姿の女子高生2人が寄り添う印象的なアップ写真。家庭の闇や人間の心理を描く物語を連想させるイメージ。 本の紹介

1. 『逃亡犯とゆびきり』櫛木理宇|読後レビュー

櫛木理宇によるサスペンス小説『逃亡犯とゆびきり』は、人間の心理、家庭の闇、そして救いのない現実を描いた衝撃作です。読後は、心に重くのしかかる余韻とともに、自分自身の“当たり前”を問い直す時間が訪れます。

2. あらすじと構成

物語の主人公は、フリーライターとして生計を立てている世良未散(せら・みちる)。ある日、女子中学生の転落事件を取材中の未散のもとに、14年ぶりに旧友の古沢福子から電話がかかってきます。福子は現在、4人の命を奪った連続殺人犯であり、重要指名手配中の逃亡犯。福子は電話で事件のヒントだけを語り、すぐに通話を切るのです。

その後も、兄弟間のストーカー殺人、弁護士一家の心中、幼い孫の虐待死、女性2人による強盗事件と、取材を重ねるたびに福子から助言の電話が届きます。未散は彼女の言葉を手がかりに、事件の裏側にある”もうひとつの真実”を浮かび上がらせていきます。

3. 読みどころ:家庭の闇と人間の心理

各章で描かれる事件はどれも重たく、胸が苦しくなるものばかりです。家庭という閉ざされた空間の中で起きる支配、蔑視、諦め、そして隠された暴力。それはまさに「skeleton in the closet(クローゼットの中の骸骨)」──外からは見えない、けれど誰の家にも存在するかもしれない闇。

誰もが家庭の事情や人には言えない秘密をひとつは抱えている。そのことを改めて思い知らされる作品です。家庭の環境に恵まれている人のほうが、実は少ないのかもしれない。そう感じるほどに、登場人物たちの背景はリアルで、胸に迫ってきます。

4. 福子という存在と罪の境界

最大の謎は、なぜ古沢福子が連続殺人犯になったのか。彼女が獄中の凶悪犯たちと接点を持っていたことや、助言の内容から浮かび上がるのは、単なる”異常者”としての描写ではありません。もしも別の家庭環境で育っていたら? 違う選択肢が与えられていたら?

罪は個人の責任なのか、それとも環境が人を追い詰めた結果なのか。そうした問いが読み進めるごとに重みを増していきます。福子の罪と未散との関係性は、ルポライターとシリアルキラーという立場を超えた、ある種の共犯関係のようにも映るでしょう。

5. 読後の余韻とおすすめの読書タイミング

読後は、どっと疲れるかもしれません。ですがその疲れこそが、この作品が描き出す現実の深さを物語っています。家庭、罪、社会の闇──それらに向き合うには、静かな夜、一人の時間がぴったりです。

現実の社会や人間関係にモヤモヤしているとき、「家族とは何か」「環境が人をどう変えるのか」と考えたくなるときにこそ、本書は心に刺さります。深く考え、重いテーマに真正面から向き合いたい人におすすめの一冊です。

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逃亡犯とゆびきり
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