『名探偵じゃなくても』──謎を解くたび、別れが近づいていく

本の紹介

認知症と向き合う名探偵が、今日も謎を解く。
ただの“お涙ちょうだい”では終わらない、知的であたたかなミステリー。
「名探偵のままでいて」の続編を読んで、優しさと切なさに包まれました。

忘れてしまう前に、伝えたいことがある

『名探偵じゃなくても』は、レビー小体型認知症を患う祖父と、孫娘・楓の交流を描くミステリー作品です。
「名探偵のままでいて」の続編にあたる本作では、推理の鮮やかさと、老いにともなう切なさが静かに織り交ぜられています。

読み終えたとき、「記憶が失われても、想いは残るのかもしれない」と感じさせてくれるような、
やさしく、でもどこか胸を打つ読書体験でした。

推理と記憶、そのはざまにあるもの

物語では、楓が日々の中で出会うちょっとした“謎”を、おじいちゃんに相談するところから始まります。
彼は記憶の一部が曖昧になりながらも、観察力と洞察力で真相に迫っていくのです。

たとえば、ある場面。
楓が持ち込んだ小さな出来事に対して、おじいちゃんは淡々と、しかし見事に真相を言い当てます。
幻覚と現実のあわいを揺れながらも、おじいちゃんの言葉は核心を突いていきます。
その瞬間、「まだ名探偵だ」と思うのと同時に、彼の目が何かを“見えていない”ように遠くを見つめていたことが、静かに胸に残るのです。

こんなふうに歳を重ねたいと思わせてくれる

私がこの物語で一番好きなのは、「推理を通じて誰かとつながろうとする姿勢」が描かれているところです。
おじいちゃんは、自分の病に飲み込まれるのではなく、誰かの力になることで自分を保とうとしている。
そして、それが自然と楓との関係にも表れているのです。

楓との距離感は、まるで静かなリズムのよう。
言葉を交わし、時に沈黙し、謎を共有する。
読んでいるうちに、「こういう時間を、家族と持てたら」と思わせてくれるやさしさがありました。

まとめ:終わりが近づくほど、今が愛おしい

事件を解決するたびに、おじいちゃんの表情が輝きを取り戻す。
けれどそのたびに、別れが近づいていることも感じさせる。
哀しみと温もりのバランスが絶妙で、心にじんわりと残る物語でした。

記憶が消えていくなかで、それでも確かに人は“誰か”であり続けられる。
そんなメッセージが、静かに、でも深く届きました。

気になった方はこちらからチェックしてみてください。

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名探偵じゃなくても
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