はじめに
子どもの頃、ぬいぐるみに話しかけたり、まるで命があるように感じたりしたことはありませんか?新井素子さんの『くますけと一緒に』は、そんな“ぬいぐるみとの特別な絆”を軸に、家族の喪失、心の拠り所、そして新たな居場所を見つけるまでの成長を描いた一冊です。ホラーのような不穏さを含みながらも、優しさに満ちた物語に胸を打たれました。
こんな人におすすめ
- 小学校高学年以上の読者
- 幼少期にぬいぐるみを大切にしていた人
- 家族との関係や愛着に悩んだことがある人
- 「心の安全基地」を求めている人
- 児童文学が好きな大人
- 子どもの心の内を理解したい保護者や教育関係者
どんなシーンで読みたい?
- 疲れて誰かに寄りかかりたくなった夜
- 子ども時代をふと思い出した時
- 誰にも話せない不安や悲しみを抱えている時
- 子どもと向き合いたい大人の読者にも
- 自分の過去と向き合いたいと感じた時
“くますけ”って何者?物語の導入を少しだけご紹介

物語の主人公は小学4年生の広瀬成美。突然の交通事故で両親を亡くし、母の友人である片山裕子さんのもとに引き取られることになります。彼女の心の支えは、唯一無二の存在──クマのぬいぐるみ“くますけ”。どこへ行くにも肌身離さず、夜も一緒に眠る。成美にとって、くますけは単なるぬいぐるみではなく、世界で一番信頼できる“家族”のような存在なのです。
裕子さんとの新たな生活が始まるなかで、成美は少しずつ外の世界と関わっていきます。しかし、物語が進むにつれて、成美の周囲で起きる“ある出来事”をきっかけに、読者は疑問を抱くことになるでしょう。くますけは本当にただのぬいぐるみなのか? それとも、成美の願いや思いに呼応するような“何か”があるのか?
安心と不安、信頼と疑念──そのあわいで揺れ動く成美の内面が、淡々とした筆致で繊細に描かれていきます。裕子さんのあたたかい眼差し、成美の心の傷、くますけへの強い愛着。それらが重なり合いながら、少しずつ物語はやさしい方向へと歩みを進めていきます。
本作の終盤では、「子どもが親よりぬいぐるみを好きでもいい」「嫌いでもおかしくない」という、誰かを否定しない優しい一言が印象的に語られます。成美のように、大人から見て少し“普通と違う”子どもたちにとって、本当に必要なのは「何が正しいか」ではなく、「何を安心と思えるか」なのだと、読者の心にそっと語りかけてくれるのです。
読者はきっと、ページを閉じたあとに気づくはずです。自分にとっての“くますけ”は何だったのか──そんな問いが、静かに残る物語です。
読後に得られる気づきや変化
この作品を読んで、私は改めて「心の拠り所の大切さ」に気づかされました。たとえそれが人ではなく、ぬいぐるみであってもいい。幼い子どもにとって、否応なしに日常が変わってしまったとき、自分だけの“味方”がいるということがどれほど心強いか。
また、裕子さんという存在が、血の繋がりを超えて「親になる」ことの意味を教えてくれます。無条件に寄り添ってくれる大人がいることで、子どもは初めて安心し、自分の気持ちと向き合えるようになるのだと感じました。
さらに、晃一おじさんのようにすぐに上手くはいかなくても「受け入れる努力」をしてくれる大人の存在が、どれだけ子どもを安心させるかも大きなテーマです。
印象に残ったシーン
- 成美がくますけを強く抱きしめる描写から、幼い心の防衛本能のようなものを感じました。
- くますけを「大切な存在」として自然に受け入れる大人の姿に、安心感とあたたかさを覚えます。
- 成美の心が揺れる瞬間や、それを見守る人々のまなざしがとても印象的でした。
- 誰かに守られていると実感できる“ささやかなやりとり”に、思わず胸がじんとします。
ぬいぐるみって、ただのモノ?

あとがきには「ぬいぐるみ教」という言葉が出てきますが、これは決して冗談だけではないと思います。私自身も幼い頃、話しかけたり、一緒に寝たり、泣くときは抱きしめたりしていました。だからこそ、成美のくますけへの依存が他人事とは思えませんでした。
そして、実は私はいまでもぬいぐるみが大好きです。 部屋に並べて一緒に過ごしている存在がいて、話しかけたり、疲れたときにはそっと抱きしめたりもします。ぬいぐるみは、年齢に関係なく“心の避難所”であり続けてくれる、かけがえのない存在なのだと感じています。
ぬいぐるみは、心の奥にある孤独や不安、怒りや寂しさを無言で受け止めてくれる存在です。そして本書は、ぬいぐるみを通して「自分の気持ちを投影する」行為が、子どもにとってどれほど重要かを描いています。
くますけが本当に力を持っていたのか、それとも成美の心の奥深くにある「願い」がたまたま現実になっただけなのか。正解はなく、読者の想像に委ねられています。その曖昧さがまた、本作の魅力と言えるでしょう。
まとめ:くますけと一緒に生きていく
『くますけと一緒に』は、怖さと優しさが同居する、唯一無二の物語です。児童文学として読むもよし、心理描写に注目して大人の読み物として味わうもよし。
成美がくますけと共に歩んできた道は、きっと誰にでも心当たりのある“不安な子ども時代”を思い出させてくれるでしょう。幼い頃に抱いていた不思議な感情、それに支えられていた記憶が、静かに胸に広がっていきます。
そして読み終えたあと、自分の大切にしていたぬいぐるみの顔が浮かんでくるかもしれません。ぬいぐるみと共に過ごした経験のあるすべての人に、ぜひ手に取ってもらいたい一冊です。
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