— 死と暮らしと「決められない私」を抱きしめるユルくて強いエッセイ
1. 本書の概要:お墓の話かと思ったら…
タイトルにある「お墓、どうしてます?」という問いは、多くの人にとって他人事ではありません。親のこと、自分のこと、家族のこと——近づいては避け、いざ直面すると何から手をつけていいのかわからない問題です。
この本は、エッセイスト北大路公子さんが、父の死をきっかけに「お墓をどうするか」を考え始めたところから始まります。けれど実際に読み始めると、そのテーマは見事なまでに脱線していきます。お墓は…あれ?まだ決めてない?あれあれ?猫飼ってる?お風呂の桶が凍ってる?
そう、これは“お墓のエッセイ”というより、“お墓に向かおうとしてなかなか辿りつかないエッセイ”。でもだからこそ、まるで読者自身の生活を覗き込まれているような共感とリアルさがあるのです。
2. どんな人におすすめか(年齢層・悩み・気分)

この本は、以下のような人にぴったりです。
- 40代〜60代の「親の老い」や「看取り」を意識し始めた方
- 家族を見送った経験のある人、またはこれから備えたい人
- 「死」を重くではなく、自然体で捉えたい人
- 堅苦しくないエッセイが好きな人、笑って泣ける本が読みたい人
- 日々の選択に疲れているすべての人
とくに、「親の死後の手続きがこんなに大変なんだ」と思い始めた方には、まさに“読んでよかった”と思える一冊になるはずです。
3. どんなシーンで読みたい?
- 実家の片付けを手伝った帰り道の電車の中で
- 年末年始、親と今後のことを少し話そうかという気持ちのとき
- 介護や看取りに関するテレビを見た後、心がザワついたとき
- 日々の「決断疲れ」にちょっと休憩したいとき
どんなにテーマが“重く”見えても、公子さんの文章には軽やかな笑いがあります。クスッと笑えて、ふと涙がにじむ。そんな不思議な読後感は、まるで小さな温泉のように、心の芯を温めてくれます。
4. 読後に感じたこと・得られる気づき
この本を通して伝わってくるのは、「人が一人いなくなること」の圧倒的な重さと、その後の暮らしのリアルさです。
- 年金事務所、銀行、クレジットカード、車の廃車、携帯解約…やることが多すぎる
- 暗証番号がわからず手続きが止まる
- お墓のことは後回しになって、なぜか保護猫を迎えている
- 固定電話はもう詐欺とセールスと訃報でしか鳴らない
何度も登場する父の存在は、「愛されていたのか迷惑がられていたのか分からない」と言いつつも、その語り口からにじむ深い情が、逆にリアルです。
エッセイの中で繰り返される「決められない私」の姿は、けっして弱さではありません。むしろ、立ち止まり、迷い、後回しにしながらも、ちゃんと前に進もうとする強さ。読後には、「人はこうして生きていくんだな」と、ふわりと納得させられます。
5. 公子さんの“ぐうたら力”が教えてくれること

少しぐうたらなところのある北大路さんですが、その中に見える芯の強さが魅力です。
日々の暮らしのなかで、「選ぶ」「決める」「行動する」といった“決断”を次々と迫られる私たちにとって、公子さんのスタンスはまさに逆張りの美学。
何かをすぐに決められないことを恥じるのではなく、「そのままでもいい」と笑いながら生きていく。そんな姿に、読者はホッとし、救われるのです。
実際、父を亡くし、会社や住まいの整理に追われ、母の老いと向き合いながら、それでも家長としての役割を果たしていく姿には、優しさと覚悟がにじみ出ています。
北大路さんのエッセイには、「だらしなさ」を装いながらも、生き抜く知恵としなやかさが詰まっています。それこそが、現代を生きる私たちにとって一番リアルな「強さ」なのではないでしょうか。
6. まとめ:私たちはもっと、迷ってもいいのかもしれない
『お墓、どうしてます?』は、「お墓」からはじまってどんどん話が逸れていきます。それでも最後には、「あぁ、そうだった。これって人が死ぬってどういうことかっていう本だったんだ」と気づかされます。
読者として私が学んだのは、“人を思い出すことこそが、いちばん大切な弔いなのかもしれない”ということ。そして、“死は終わりじゃなくて、その後の暮らしが続いていく”ということ。
コロナ禍でお墓取材が中止になった話や、札幌の冬の寒さ(お風呂の桶が凍る!)の描写には、時代と地域の空気も詰まっています。読者としては、定点観測的な記録としてもとても面白い。
人生の中で、いつか必ず訪れる“誰かを見送る日”。その時が来たとき、ちょっとこの本を思い出して、「そうそう、北大路さんもなかなかお墓決めてなかったな」と笑えたら、それだけでいいのかもしれません。
死ぬって、本当に大変だ。でも、生きるって、もっと大変。
だからこそ、今日も暮らしは続いていく。
北大路公子さんのユーモアと飾らない文章が、そんな“どうしようもない現実”を、少しだけ軽やかに、そして愛おしくしてくれます。
✴️ 読み終えたあと、思わず「親のスマホ、どう管理されてるんだろう…?」と考えた方へ。
知識としても心の準備としても、この本はおすすめです。
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