親の愛はどこで間違うのか。『人間に向いてない』読書レビュー

黒澤いづみ『人間に向いていない』書影|親子と社会の歪みを描く小説

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この本を読むと、
「自分はちゃんと人と向き合えているだろうか」
「子どもや身近な人を、無意識にコントロールしようとしていないだろうか」
そんな問いが、読み終えたあとも心に残ります。

子育てに正解はありません。
でも、人を人として尊重する姿勢は、何度でも考え直すことができる。

『人間に向いてない』は、
家族・子育て・自己肯定感・社会の線引きといったテーマを通して、
読者それぞれの人生に、そっと気づきを与えてくれる一冊です。


あらすじ(ネタバレは控えめに)

ある日、主婦の田無美晴は、引きこもりの息子・優一の部屋から、異様な音を聞きます。
思いきって扉を開けた先にいたのは、虫のような異形の存在。

それは、間違いなく息子の優一でした。

数年前から全国で発生している奇病、
「異形性変異症候群(ミュータント・シンドローム)」。

若者、特に引きこもりやニートと呼ばれる層に多く発症し、
国は患者を制度上「死亡扱い」にする決定を下します。

生きているのに、社会からは存在しないものとして扱われる。
美晴の夫は息子を受け入れられず、
親族も冷たく、
世間の目は容赦ありません。

それでも美晴は、
「まだ生きている息子」を見捨てることができませんでした。


SFのようで、とても現実的な物語

息子が虫に変わる。
その設定だけ聞くと、ホラーやSFのように感じるかもしれません。

けれど、この物語が描いているのは、
決して非現実な世界ではありません。

描かれているのは、
・病気
・障害
・引きこもり
・差別や偏見
・「普通」から外れた人への扱い

私たちの社会でも、日常的に起きている問題です。

役に立つかどうか。
迷惑をかけるかどうか。
その基準で、人の価値を無意識に測ってしまう怖さが、
この物語にははっきりと描かれています。


母・美晴は「悪い親」なのか

美晴は、息子を愛していない母親ではありません。
むしろ、とても一生懸命でした。

一人息子を大切に育て、
不幸にならないようにと先回りし、
「こうした方がいい」と言い続けてきた。

でも、その正しさは、
優一の気持ちを置き去りにしていたことに、
少しずつ気づいていきます。

読み進めるほど、目を背けたくなる感覚になりました。
なぜなら、多くの親が無意識にやってしまうことだからです。

「子どものため」
その言葉が、ときに子どもを縛る鎖になる。

この作品を読んで、そう感じました。


「みずたまの会」に感じる違和感

美晴は、異形になった家族を持つ人たちが集まる「みずたまの会」に参加します。

同じ立場の人と出会い、
悩みを共有し、
少し救われた気持ちになる。

けれど、次第に、
・寄付金への違和感
・会の中の空気
・人が徐々に去っていく理由
が見えてきます。

善意で始まったはずの場所でも、
人の弱さや依存、歪みが入り込む。

助け合いだけでは救えない現実が、
とてもリアルに描かれています。


子どもは、親の所有物ではない

この物語が何度も問いかけてくるのは、
「親子でも、他人である」という事実です。

子どもは、
親の理想を叶える存在ではない。

思い通りに育てる対象でもない。

それでも、
親はつい「正しさ」を押しつけてしまう。

この本を読むと、
「自分はどうだっただろう」と、
自然と振り返ってしまいます。


優一の心情が、胸を突き刺す

優一は、長い間、
自分の価値を信じられずに生きてきました。

死にたい。
でも、自分で死ぬ決断もできない。

誰かに決めてほしい。
自分の生死も、価値も。

この感覚に、思い当たる人もいると思います。

「生きていていい」と、
ただ誰かに認めてほしかった。

その心の叫びが、はっきりと伝わってきます。


読後に残る、簡単ではない余韻

物語の終盤、
一見すると救いのような展開が訪れます。

けれど、
すべてがなかったことになるわけではありません。

傷ついた時間は消えない。
許しは、そんなに簡単なものではない。

それでも、
「これからどう生きるか」を選び直すことはできる。

この現実的な描き方が、
とても人間らしく、心に残ります。


誰におすすめしたい本か

この本は、特にこんな人におすすめです。

・30代〜50代の大人
・子育て中、または子育てを振り返る世代
・「ちゃんとしなきゃ」に疲れている人
・引きこもりや生きづらさに関心がある人
・自分を責めがちな人

「今のままでいいのか」と立ち止まっているときに、
そっと寄り添ってくれる一冊です。


優一の心情に強く引っかかった方には、
住野よる「よるのばけもの」もあわせて読んでほしい一冊です。
こちらも、「なぜここまで追い詰められてしまったのか」「生き延びることに意味はあるのか」を、子どもの側の視点から描いた物語。
誰にも見えない場所で抱え込んできた気持ちに、そっと触れるような読書体験になります。

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どんなシーンで読みたいか

・夜、ひとりでのんびり過ごす時間
・感情が動いても大丈夫な余裕のある日
・読み終えたあと、すぐ答えを出さなくていいとき

流し読みはできません。
でも、その分、深く残ります。


読後に得られる気づきと変化

読み終えたあと、
少しだけ視点が変わるかもしれません。

・人を「役に立つ/立たない」で見なくなる
・子どもや身近な人への言葉を、選ぶようになる
・過去を悔やむより、「これから」を考えたくなる
・尊重するとは何かを、改めて考える

派手な答えはありません。
でも、確かな気づきがあります。


作者・黒澤いづみさんの描写力

家族という近しい関係だからこそ生まれる闇を、
ここまで深く、逃げずに描いている点が強く心に残ります。

普段は気づかないまま通り過ぎてしまう感情や選択が、
ある瞬間に取り返しのつかない形になることもある。
その怖さが、じわじわと伝わってきます。

人は誰でも、
善意にも、残酷さにも傾いてしまう。

その現実を、
過剰に煽ることなく、誠実に描いた作品です。


まとめ|それでも、今日を生きていく

『人間に向いてない』は、
読んですぐ前向きになれる本ではありません。

でも、
人を人として見ることの大切さを、
時間をかけて、深く、教えてくれます。

未来はわからない。
社会も、家族も、変わっていく。

それでも、
「今日のご飯を何にしようか」
そんな小さな日常を生きていく。

その積み重ねこそが、
人間なのだと感じさせてくれる一冊でした。

子育て中のお母さんに。
そして、かつて子どもだったすべての人に。


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