1. 『燃える氷華』とはどんな小説か?
未解決事件が絡む、心に残る女性刑事の物語を探している方へ。
斎堂琴湖『燃える氷華』は、17年前に息子を亡くした51歳の女性刑事・蝶野未希を主人公に据えた、重厚な社会派ミステリーです。息子の遥希は当時5歳。廃工場の冷蔵庫の中に閉じ込められて亡くなっていたという、あまりにも悲惨な事件でした。事件は未解決のまま時が流れ、母である未希の心にも、長く氷のような痛みが残り続けていました。
そんな彼女が、非番で訪れた大宮駅前のバスロータリーで爆破事件に遭遇するところから物語は始まります。被害者の男は、遥希の葬儀を担当した葬儀社の社員。そしてその数日後、その男の同僚もまた、大宮駅前で殺されるという事件が発生します。偶然のはずが、次第に過去の事件とのつながりが浮かび上がり、未希はふたたび“あの日”と向き合うことになります。
本作では、未希とコンビを組む県警の宇月明之、別居中の夫である町岡隼人との関係も物語に深みを与え、複雑な人間模様の中で事件の真相に迫っていきます。
2. 母としての痛みと女刑事としての強さ
この作品の大きな魅力の一つが、主人公・蝶野未希の人物造形です。彼女は50代半ばにして現役の刑事であり、ジムで体を鍛えるほど体力と意地を維持し続けている、極めて稀有な存在です。息子を亡くしたという深い傷を抱えながらも、未希は現場に立ち続ける決意を捨てていません。
母としての執念と、女性としての感受性。それらが彼女の捜査において重要な役割を果たし、男性刑事にはない視点で真実へと迫っていきます。未希の内面にある「母として息子を守れなかった自責の念」と「刑事として事件を解決したいという使命感」は、読者に強く共感を呼び起こします。
また、彼女は17年間、夫である町岡隼人と別居しながらも、離婚はせずにいます。これは息子の事件にけじめをつけられないまま時間が止まっていることの象徴であり、未希自身の心の“凍結”を象徴する設定でもあります。
3. 社会問題も浮き彫りにするリアリティ
『燃える氷華』が優れているのは、単なるミステリーではなく、現代社会が抱える複雑な問題にも鋭く切り込んでいる点です。物語の中では、女性刑事に対する偏見や、シングルマザーの孤独と経済的困窮、さらには子どもの虐待や育児放棄など、現実に即したテーマが描かれます。
事件を捜査する中で出会う青年・ハルの存在もまた、物語の鍵を握る重要な役割を果たします。彼の言動は未希の心を大きく揺さぶり、過去と現在をつなぐ糸口となっていきます。
「頼る人がいない」「お金がない」——そんな環境に置かれた親と子の悲劇。未希が追う事件の背景には、表面化しづらい社会の闇が潜んでおり、それが読者の心に重く響いてきます。
4. 凍りついた過去が動き出すスリリングな展開
物語の中盤から後半にかけて、物語は加速度的に動き始めます。ドライアイスを使った連続殺人事件、爆破事件、刺殺事件……。一見無関係に見えるそれぞれの事件が、未希の息子の死と驚くほど密接につながっていきます。
懐中時計、葬儀社、冷蔵庫というキーワードが絡まり合い、過去の事件の真相が少しずつ明らかになっていく過程は、読者をページから離れさせません。
特に印象的なのは、未希の「誰を憎めばいいのか」「自分が本当に向き合うべきは誰なのか」という内面の葛藤です。感情と職務の間で揺れながらも、未希は一歩ずつ真相に近づいていきます。
終盤、明らかになる真実と犯人の動機には、驚かされると同時に深い哀しみを覚えるはずです。「こんな結末が待っているなんて」と、読後にはしばらく言葉を失うことでしょう。
5. 女性刑事が主役という新鮮さと魅力
『燃える氷華』が他のミステリーと一線を画している理由のひとつが、主人公がアラフィフの女性刑事であるという点です。一人称は「あたし」。その語り口がリアルで、読者にとって非常に親近感があります。
これまで男性中心に描かれがちだった警察小説の世界に、等身大の女性が登場し、しかも年齢や性別の壁を越えて力強く捜査を進めていく姿は、新鮮でありながらもどこか励まされる存在です。
作中の印象的なセリフのひとつに、「後悔は、自分を慰めるための言い訳かもしれない」という未希の独白があります。この一言が、彼女の強さと葛藤を象徴しており、読者の心に深く刺さります。
年齢や性別に関係なく、自分の信念を貫く主人公の姿に勇気をもらえる読者も多いのではないでしょうか。
6. こんな人におすすめしたい
この物語は、重たいテーマにじっくり浸りたいときに最適です。事件の背後にある“見えない苦しみ”を描き出すことで、読者の感情を丁寧に揺さぶってくれます。
母としての痛み、女性としての葛藤、失ったものへの後悔、それでも前に進もうとする力。そういった感情に共感できる大人の女性読者に、特におすすめです。
また、派手なアクションではなく、静かに深く心をえぐるような物語が好きな方には、この小説は間違いなく刺さるでしょう。
読後、心が静かに揺れる。そして誰かとこの本について語りたくなる——そんな一冊です。
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