はじめに
飽食の時代といわれる現代日本で「餓死」を題材にした社会派ミステリー。中山七里の小説『護られなかった者たちへ』は、読む者の価値観を揺さぶり、社会制度の矛盾に切り込む衝撃作です。
善人とされる人物が立て続けに餓死させられるという異様な事件。殺人事件の謎解きだけでなく、その背後に潜む“福祉制度の光と影”を描き、読者の心を強く揺さぶります。
この本は誰におすすめ?
- 社会問題に関心がある人
- 人間ドラマに惹かれるミステリー好き
- 福祉制度に疑問や関心を持っている人
- 「正義とは何か」を深く考えたい中高生〜大人まで
また、福祉関係の仕事に携わっている方や、生活保護という言葉にモヤモヤした印象を持っている方にもぜひ手に取ってほしい一冊です。物語の奥に潜むテーマは、誰しもが“社会とつながって生きる”以上、他人事ではありません。
どんなシーンで読みたい?
- 社会のあり方を見直したいとき
- 現実に疑問を持ったとき
- じっくりと深い読書体験を求めている夜
- 自分が支援者または支援を必要とする立場にいると感じたとき
事件の背景にあるリアリティと、人間の弱さ・優しさに触れたとき、自分自身の立ち位置や社会との関わり方を振り返りたくなります。この作品は”静かに胸をえぐる”ような読書体験をもたらし、読み終わった後も長く心に残ります。
あらすじと物語の背景

舞台は東日本大震災後の仙台。福祉保健事務所の課長・三雲が、古いアパートの一室で餓死体として発見される。続いて、人格者と評される県議会議員・城ノ内が森の中で餓死遺体として発見される。
事件を追うのは、県警捜査一課の笘篠と蓮田。捜査は難航するが、やがて一人の仮釈放中の男・利根勝久に辿りつく。
利根は、かつて暴力団とのトラブルに巻き込まれたところを「けい婆ちゃん」に助けられ、同居するようになる。そこにはカンちゃんという少年もおり、3人で心を通わせる日々があった。しかし、けいが生活に困窮し、何度も生活保護を申請するも拒否され、餓死してしまう。
その事件を境に、利根は怒りに駆られて行動を起こす。制度が“人を殺した”という事実と向き合いながら、物語は加害者と被害者の境界線を曖昧にし、読者に「正義」とは何かを突きつける。
読後に得られる気づきと変化
この作品からは、さまざまな気づきを得ることができます。
- 生活保護を巡る制度の矛盾に強く問題意識を持った
- 「本当に助けを必要とする人」が制度の隙間にこぼれ落ちている現実に気づいた
- 福祉事務所の職員もまた、国の方針に従って働く中で葛藤していることを知った
- 「善人」や「加害者」「被害者」というラベルの曖昧さに気づかされた
また、読後には大きな虚無感ややるせなさも残ります。しかし、それがまさにこの物語の本質。現実社会と地続きにあるテーマを、ただのフィクションとして終わらせない力があります。
登場人物が映し出す社会の歪み

- 利根勝久:過去に犯罪歴があるが、本質的には優しさと正義感を併せ持つ人物。けいとカンちゃんとの絆が深く、法では救えなかった命を自分の手で”裁こう”とする。
- けい婆ちゃん:頑なに国の世話にならず、最期は申請を拒否され餓死。自立と誇りを貫いたが、それが制度に殺された。
- カンちゃん:子どもの頃に利根と出会い、福祉保健事務所で働くように。けいの死が今も心に影を落としている。
- 三雲・城ノ内・上崎:一見善人でありながら、制度において他人を切り捨てる立場にいた者たち。
登場人物たちは、それぞれの立場から「正しさ」と「矛盾」を抱えています。善悪の境界線が崩れていく様子は、読者に問いを突きつけてきます。
社会派ミステリーとしての力
中山七里の描く世界は、単なるミステリーではありません。殺人事件を描きながらも、その根底にあるのは「制度による殺人」とも言える構造的暴力への告発です。
読み進めるうちに、「本当に悪いのは誰なのか?」「人を裁く権利は誰にあるのか?」という問いが心に残ります。事件の背景には、生活保護行政の矛盾、申請を阻む“水際作戦”、国の評価システムなど、実際に存在する問題が織り込まれています。
声の大きい者、不正受給する者にばかり支援が行き渡り、昔気質で遠慮や自立を美徳とする人が見捨てられていく。その構造に怒りと虚しさを覚えずにはいられません。
おわりに
『護られなかった者たちへ』は、読む人の心を深く抉る作品です。制度の綻びの中で「護られるべきだった人たち」がこぼれ落ちていく現実を、ミステリーの形式で鋭く描いています。
読み終わったあと、「自分にできることは何か」「社会とどう関わるか」を考えずにはいられません。
生活保護を“特別な誰か”の制度と考えるのではなく、「明日は我が身かもしれない」制度として、もっと広く理解される社会になるべきです。
エンタメとしても優れていながら、深い社会的テーマを含んだ『護られなかった者たちへ』。ぜひ多くの方に読んでいただきたい一冊です。
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