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「一人の気楽さ」と「誰かといる幸せ」─瀬尾まいこ『傑作はまだ』

瀬尾まいこ『傑作はまだ』文春文庫 表紙画像 瀬尾まいこ

この本から得られるもの・効果

  • 人との関わりを避けてきた人が、一歩外に出て人と繋がることの温かさに気づける
  • 「一人でいる気楽さ」と「誰かといる幸せ」の違いに気づかされる
  • 自分の殻に閉じこもってしまいがちな時に背中を押してくれる
  • 親子や家族の繋がりをあらためて考えるきっかけになる
  • 何気ない日常の中にこそ人生の大切な宝物があると気づかせてくれる

誰におすすめか

この物語は、以下のような人に特におすすめです。

  • 人付き合いが苦手で、つい一人で過ごしてしまう人
  • 最近「世界と切り離されている」と感じている人
  • 家族との関係を見つめ直したいと思っている人
  • 心温まるストーリーで癒されたい人
  • 落ち込んだ時に前向きな気持ちを取り戻したい人
  • 忙しい日常に疲れて「人と関わることが面倒」と思い始めている人
  • 読後に少し優しい気持ちになりたい人

占い師を通して「人の悩みや心に寄り添うこと」の大切さが描かれている、瀬尾まいこの小説 『強運の持ち主』 もおすすめです。
👉 『強運の持ち主』感想記事はこちら


どんな物語か

本に囲まれた小説家の部屋のイメージ

主人公は50代の小説家・加賀野正吉。人付き合いが苦手で、食生活も乱れ、長年ほとんど一人で暮らしてきました。そんな彼のもとに、25歳になるはずの息子・智(とも)が突然現れます。智は生まれてから一度も会ったことのない存在。かつて大学時代の友人との飲み会をきっかけに出会った女性・美月との間にできた子供でした。

最初は戸惑いながらも、智との共同生活が始まります。コミュ力が高く人懐っこい智は、近所の人とも自然に交流し、父である加賀野を地域の集まりに引っ張り出します。コンビニやカフェといった日常の小さな出来事が、加賀野にとっては大きな学びとなり、「人と関わることの豊かさ」を思い出していくのです。

印象的なのは、智と一緒にスタバへ行く場面。注文の仕方さえ分からない加賀野を自然にフォローし、周りの人たちがさりげなく助け合う様子を見せる智。加賀野は、実は自分が世界から取り残されていることにすら気づかないまま過ごしてきたのかもしれません。けれど智と過ごす時間の中で、人は日常の中で支え合いながら生きているのだと気づかされていきます。

この物語には、爆発的な事件や大きなドラマはありません。けれど、一人の作家が少しずつ世界に関わりを取り戻していく姿は、静かで、じんわりと心に沁みてきます。そして読み進めるうちに「どうして智はいま父の元に現れたのか?」という問いがじわじわと膨らみ、物語の奥にある秘密が気になってページをめくらずにはいられません。



読むのにおすすめのシーン

  • 夜の静かな時間に、心を落ち着けてページをめくりたいとき
  • 気持ちが落ち込んで「一人の方が楽だ」と思ってしまったとき
  • 人間関係で疲れた心を、優しい物語で癒したいとき
  • 家族の存在について考えたいとき
  • 孤独を感じたときに「少しだけ外に出てみよう」と思える一冊が欲しいとき

読後に得られる気づき

  • 人と関わるのは面倒に思えるけれど、そこでしか得られない幸せがある
  • 「孤独の気楽さ」と「つながりの温かさ」、どちらも必要だと気づける
  • 何気ない日常こそが人生を豊かにするということ
  • 自分の視野は思った以上に狭くなっているかもしれない、とハッとさせられる
  • 誰かの笑顔を見て「自分も嬉しい」と思える瞬間が、人生の幸福そのものだと分かる

感想──静かなのに心を掴まれる傑作

小説を執筆中のイメージ

瀬尾まいこさんの作品らしく、登場人物がみんな優しくて、読んでいるだけで心が温まります。特に息子・智の存在はまぶしいほどに前向きで、こんな人が身近にいてくれたら世界はもっと優しくなるのでは、と感じました。

正吉の不器用さもまたリアルで、読者は思わず「自分も似たようなところがある」と共感してしまいます。家から出るのが億劫だったり、人と話すときにどう声をかければいいか分からなかったり。けれど智の存在によって少しずつ外の世界に目を向けるようになる姿は、「人は何歳になっても成長できる」と教えてくれます。

物語が進むにつれて、まず長く遠ざけていた実家の門をくぐる場面があり、そこでの小さな再会が過去と向き合うための心の準備になります。そのうえで、智の存在を背に、美月とも静かに向き合っていく流れが描かれます。自分が思っていた以上に世界は受け入れてくれる場所だったのかもしれない──そんな気づきが彼の中に芽生えていくのです。この描写は胸に迫り、読後にもしばらく余韻が残ります。

「人と関わるのはしんどい」と思ってしまうのは、多くの人に共通する悩みかもしれません。主人公・加賀野もまさにそのタイプ。でも智と暮らすことで、これまで見ようともしなかった世界に触れ、幸せは自分次第で広がっていくことに気づいていきます。

大げさな事件は起こらない。けれど、この「小さな変化」こそが大事なのだと、読者にも教えてくれる。そんな静かなのに力強い物語でした。



この本が教えてくれること

『傑作はまだ』は単なる家族の再会物語ではありません。親子、地域、友人──すべての人間関係を通して、「人は人と関わることでしか成長できない」という普遍的なテーマを描いています。

  • 息子の存在が父の人生を変える
  • 他者とのつながりが孤独を癒す
  • 誰かの笑顔が自分の喜びになる

そんな当たり前のことを、私たちは忘れてしまいがちです。この物語はそれをやさしく、でも確かに思い出させてくれるのです。


まとめ──人と繋がる練習をしたくなる一冊

『傑作はまだ』は、人との関わりを避けがちな人にこそ読んでほしい作品です。読後には「少しだけ外に出てみようかな」「久しぶりに誰かと話してみようかな」と思わせてくれます。

家族、地域、友人──そのつながりは時に面倒で、時に重荷に感じることもあります。でも、それを避けてしまうことで失っている幸せも確かにある。そう気づかせてくれる一冊です。

静かに、だけど確かに心を動かす物語。読んでよかったと思える「傑作」でした。


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