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羨望と孤独のあいだで揺れる心。綿矢りさ『蹴りたい背中』

綿矢りさ『蹴りたい背中』書影。孤独と嫉妬、恋する衝動を描いた青春小説。

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「他人を理解したい。でも、近づきすぎるのが怖い。」
そんな思春期の心の痛みを、これほど鮮やかに描いた小説はそう多くありません。

綿矢りささんの『蹴りたい背中』は、高校生・長谷川初実(ハツ)と、同じクラスのにな川を中心に描かれる物語です。
孤独・憧れ・嫉妬といった言葉では言い表せない感情が、静かな筆致で、痛いほどリアルに描かれています。

この作品を読むことで得られるのは――
「人間の心の“黒い部分”も、確かに自分の一部なんだ」と、そっと受け入れる勇気。
他人との距離を保ちながらも、誰かに惹かれてしまう“どうしようもなさ”を、少しだけ愛せるようになる本です。


登場人物の不器用さが刺さる――あらすじと世界観

ハツが教室で一人で過ごしているイメージ写真

主人公のハツは、高校に入って2か月たってもまだ友達がいません。
授業で「好きなところに座って」と言われても、いつも余ってしまう。
いらないプリントを細くちぎって時間を潰すような、そんな“居場所のなさ”を抱えています。

一方、同じクラスの男子・にな川もまた、一人で浮いた存在。
彼は女性ファッション誌を読みながら、モデルのオリチャンに異様なほど心を奪われています。

ある日、にな川がハツを自分の家に呼びます。
彼は雑誌に載っていたオリチャンのことを熱心に語り、ハツが以前そのモデルを見かけたことがあると知ると、どこで会ったのか詳しく聞きたがりました。
それがきっかけとなり、二人の奇妙な関係が始まります。

ハツは、他人を寄せつけないにな川の「世界の狭さ」に惹かれながらも、どこか理解できない距離を感じていました。
それでも、同じ“孤独な者同士”として心のどこかで共鳴してしまう。
そんな微妙な感情が、彼女の心を少しずつ揺らしていくのです。


誰におすすめか:心がもやもやしている人へ

この本をおすすめしたいのは、
「人間関係に疲れてしまった人」や「他人に嫉妬してしまう自分が嫌な人」です。

  • 学校や職場で浮いていると感じる
  • SNSで誰かの幸せを見ると、素直に喜べない
  • 「どうしてあの人ばかり」と心の中で思ってしまう

そんな自分に気づいて、落ち込んだ経験のある人なら、きっとハツの心に共感するはずです。

『蹴りたい背中』は、思春期の話に見えて、実は大人にも刺さる物語です。
他人の成功や楽しそうな姿を見て「羨ましい」「悔しい」と思ってしまう――
そんな自分の心の動きを、誰もが一度は経験しているから。

この作品は、その“どうしようもなさ”を責めるのではなく、そっと見つめ直すきっかけをくれます。

思春期の不器用さを描いた『蹴りたい背中』に心を動かされたなら、
大人になった“関係の痛み”を描く 綿矢りさ『かわいそうだね?』 もおすすめです。
他人との距離や優しさの裏にある残酷さを、静かにえぐるような一冊です。
👉 『かわいそうだね?』の感想はこちら


どんなシーンで読みたいか:静かな夜に、自分の心と向き合う時間に

『蹴りたい背中』は、一気読みするよりも、
夜、ひとりで静かにページをめくるのにぴったりの本です。

周囲の人とうまく関われなかった日の夜。
「誰ともつながれない」と感じる休日の午後。
そんな時に読むと、ハツやにな川の不器用な心が、自分の心と重なります。

この小説には派手な事件も、恋愛の成就もありません。
でも、ページを閉じたあとに残るのは「人と関わるって、こんなにも複雑なんだ」という確かな実感。
その余韻が静かに胸に広がります。


読後に得られる気づき:「嫉妬」もまた、人をつなぐ感情かもしれない

読後、心に残るのは“蹴りたい”という衝動の正体。
それは、嫌悪でも暴力でもなく、**「どうしようもなく惹かれる気持ち」**です。

にな川を見ているハツは、
「彼みたいに好きなものに一直線でいられたら」と憧れながら、
「どうしてそんなに無神経でいられるの」と苛立ちも覚えています。

つまり彼女の中には、嫉妬と憧れ、嫌悪と愛着がぐちゃぐちゃに混ざっている。
そして、その感情の入り混じりこそが、人間のリアルな心なんです。

この本を読むと、
「誰かを嫌いになったり、羨ましく思ったりする自分」もまた、人間らしいと気づかされます。
嫌な感情を否定するのではなく、「それも自分」と認める。
その視点を与えてくれるのが、この作品の一番の魅力です。


作中の“蹴り”にこめられたもの:痛みの中の愛しさ

にな川がオリチャンの載っている雑誌を収集しているイメージ写真

タイトルの「蹴りたい背中」という言葉。
それは決して暴力的な意味だけではありません。
むしろ、**「相手とつながりたいのに、うまく言葉にできない不器用さ」**の象徴です。

ハツがにな川の背中を蹴りたくなるのは、彼を突き放したいからではなく、
「自分の存在を感じてほしかった」のかもしれません。


その衝動の中には、怒りや嫉妬だけでなく、かすかな“親密さへの欲望”の気配も潜んでいます。
触れたいのに触れられない距離。
理解したいのに理解できないもどかしさ。
その狭間で生まれる感情は、痛みと同時に、どこか甘やかでもあります。

思春期の心には、「好き」と「壊したい」、「憧れ」と「支配したい」という相反する気持ちが共存しています。
ハツが感じる“蹴りたい”という衝動は、その境界線上にある――恋愛と暴力、憧れと欲望が混ざり合う場所なのです。

綿矢りささんは、この曖昧で危うい感情を、言葉に頼らず「行為」や「視線」の中に描き出します。
それが読者にリアルな生々しさを感じさせると同時に、どこか神聖な痛みとして心に残るのです。


綿矢りささんの筆が描く、青春の痛みと誠実さ

綿矢りささんは、デビュー当時17歳。
『蹴りたい背中』は、史上最年少で芥川賞を受賞した作品としても知られています。

若さゆえの鋭い感受性が、この作品全体に流れています。
ハツやにな川のセリフの一つひとつに、思春期特有の息苦しさと透明さが混じっていて、読むたびに胸が締めつけられます。

しかも、どの登場人物も決して“悪者”ではない。
自分の居場所を探し、失敗しながらも、懸命に生きているだけ。
だからこそ、読む側も「わかるよ」と心の中でつぶやきたくなるのです。


自分の中の「蹴りたい背中」に気づく

この作品の面白さは、読者それぞれの中に“蹴りたい背中”があると気づかせてくれるところです。

たとえば――
・自分より仕事ができる同僚
・SNSで充実して見える友達
・何も考えず楽しそうにしている家族

彼らの背中を見て、「なんであの人ばかり」と思った瞬間。
それこそ、あなたの中にある“蹴りたい背中”なのかもしれません。

でも、それは悪いことではありません。
嫉妬や苛立ちの奥には、**「私もあんなふうに生きたい」**という憧れがある。
そのことに気づけたとき、心は少しだけ軽くなります。


まとめ:不器用な心のままで、生きていい

『蹴りたい背中』は、孤独な高校生の物語でありながら、
実は“誰にでも起こりうる心の葛藤”を描いた普遍的な小説です。

私たちは誰もが、誰かを羨み、誰かに嫉妬し、
それでも人と関わりたいと願う存在。

だからこそ、この物語の「痛み」が、どこか懐かしく感じるのです。


🌙こんな人におすすめ

  • 他人との距離の取り方に悩んでいる人
  • 嫉妬や孤独に苦しんでいる人
  • 「人間関係って難しい」と感じているすべての人

💡読後に得られる気づき

  • 嫉妬も憧れも、人間らしい自然な感情だと受け入れられる
  • 他人の幸せを素直に見られない自分を、少しだけ許せるようになる
  • 不器用でもいい、正直な気持ちを大切にしたくなる

最後に

『蹴りたい背中』を読むと、心の中にあるモヤモヤが少しずつ形になります。
それは「嫉妬」という名前の痛みかもしれないし、
「誰かに見てほしい」という叫びかもしれません。

でも、そのどちらも人間らしさの証。
綿矢りささんの文章は、その不器用さを美しくすくい上げてくれます。

だからこそ、ページを閉じたあと、少しだけ自分を好きになれる――
そんな不思議な読後感が残る一冊です。


📖 『蹴りたい背中』(綿矢りさ)
孤独を抱えたままでも、人を想っていい。
そして、傷つきながらでも、生きていける。

あなたの心の奥にも、きっと“蹴りたい背中”があるはずです。


気になった方はこちらからチェックしてみてください。

『蹴りたい背中』は、各ストアで詳しく見られます!

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