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誰かのせいじゃない。自分の人生は、自分で選んでいい──『星を掬う』読後レビュー

町田そのこの感動長編『星を掬う』の文庫版書影。母娘の再会と心の再生を描く物語。 町田そのこ

「母に捨てられた」「不幸になったのは誰かのせい」「人生が思うようにいかない」——
そんな感情にとらわれながら生きてきた主人公が、かつての母との記憶を辿り、再会し、赦し、そして自分自身の人生を歩き直すまでの物語。それが、町田そのこさんの小説『星を掬う』です。

読み終えたあと、きっと誰かに話したくなる。
そして、自分の人生をもう一度見つめ直したくなる。
これはそんな一冊です。

どんな人におすすめか

この物語が特に心に響くのは、こんな方ではないでしょうか。

  • 家族との関係に悩んでいる方
  • 親子のわだかまりに折り合いがつけられない方
  • 「誰かのせいでこうなった」と感じる瞬間がある方
  • 自分を責めすぎてしまう癖のある方
  • 「人と距離を取りたいのに、近づきたい」ジレンマに苦しむ方

本作は、親子、女性、過去、自立、そして「許し」が重なり合った人間ドラマです。
誰にでも刺さるポイントがあり、「私はこれでよかったのか」と問い直すきっかけになる作品です。

どんなシーンで読みたいか

重たいテーマを扱っている本作ですが、不思議とページをめくる手は止まりません。

おすすめの読書シーンは…

  • 静かな夜、ひとりでじっくり向き合いたいとき
  • 家族や人間関係に疲れているとき
  • 自分の過去を見つめ直したくなったとき
  • 「誰かのせい」にしてしまいそうな気持ちを抱えているとき

読み進めるうちに、心の奥にしまっていた感情にふっと触れられるような、そんな優しさのある物語です。

物語のあらすじと登場人物たち

芳野千鶴は、DV・借金癖のある元夫・弥一から離婚後も逃れられずにいました。
ある日、子ども時代の夏の旅の思い出をラジオに投稿したことで、別れた実母・聖子の居場所を知ります。

聖子は現在、若年性認知症を患い、芹沢恵真という女性と暮らしていました。恵真もまた、過去に男からの暴力を受け、生きづらさを抱えた女性。さらに介護の知識を持つケアマネージャーの彩子が加わり、奇妙な“4人家族”のような共同生活が始まります。

しかし、過去に心を傷つけられた者同士、うまくはいきません。
誰かを羨んでしまったり、妬んでしまったり、距離が縮まったと思った矢先に反発してしまったり——。それでも、同じ屋根の下で暮らすうち、少しずつ心の壁が崩れていきます。

登場人物たちは、みな“何かを捨てられた人”。
子どもを捨てた母。
母に捨てられた子。
夫に、娘に、社会に捨てられた女たち。

それでも彼女たちは、互いの存在を通して、自分の人生を生きなおしていこうとするのです。

得られる気づきと変化

この物語を通して、いくつもの大切な気づきをもらいました。

「不幸」は、他人のせいじゃない

登場人物のひとりが放った、「あなたのせいで私は不幸になった」という言葉。
それは、思わず「そう思いたくなる気持ち」を代弁していたようにも感じました。

けれど、物語の中で少しずつ明かされていくのは、「不幸」や「不運」は、必ずしも誰かのせいではないということ。
自分の人生に責任を持ち直すこと、自分自身の感情と丁寧に向き合うこと。
それが、前を向いて生きていく第一歩なのだと気づかされました。

「誰かのせい」にしている限り、人生は変わらない。
でも、自分自身の手で選び取るという意志が持てたとき、ほんの少し、光が差すのかもしれません。

親子は「役割」ではなく、関係の中で育つもの

この物語は、親子という特別なつながりが、必ずしも“無条件の愛”で成り立っているわけではないということも教えてくれます。

親もまた、完璧ではない。
子どももまた、期待される“いい子”ではいられないこともある。
それでも、少しずつでもわかり合いたいと願う気持ちがあれば、関係は変わっていく。

血の繋がりよりも大切なのは、お互いを“ひとりの人間”として認め合おうとする姿勢なのだと、物語を通して強く感じました。

感想と心に残った場面

物語を読み進めるうちに、印象に残るのは、登場人物たちが“自分の人生を自分で選び取ろう”とする姿勢です。

過去に誰かに傷つけられ、環境に振り回されてきた彼女たちが、「それでもこのままでは終われない」と一歩踏み出す。
その決断や葛藤が、読者の心にもじわじわと響いてきます。

とくに母娘の関係は、単純な愛情や恨みでは片づけられない複雑さがあります。
それでも言葉にできない思いを少しずつ伝え合おうとする様子に、胸を締めつけられながらも、希望のようなものが確かに灯っていくのを感じました。

そして、タイトルにある『星を掬う』という言葉。
読後には、このタイトルが物語全体を優しく包むように感じられ、静かに心を震わせてくれます。
まるで、夜の空に浮かぶかすかな光を見逃さないよう、手のひらでそっとすくい上げるような、そんな物語でした。

おわりに:この物語はあなたのためにある

『星を掬う』は、壮絶な人間ドラマでありながら、読者を突き放さない優しさを持っています。

誰かに愛されなかったと感じた過去、傷ついた過去、それでも愛したいと願った過去。
それらを否定せず、静かに寄り添いながら、「それでも人生は続いていくよ」と囁いてくれる物語です。

そして何よりも、「自分の人生は、自分のものだ」というメッセージが、どんな状況にある人にも届いてほしいと強く思いました。

人生は、自分で選び、自分で紡いでいくもの。
もし今、誰かのせいで生きづらさを感じているなら、この本を手に取ってみてください。
きっと、あなた自身の人生を、もう一度大切にしたくなるはずです。


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