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一枚の絵がつなぐ物語 青山美智子『赤と青とエスキース』書評

青山美智子『赤と青とエスキース』書影 本屋大賞第2位を受賞した小説 青山美智子

この本で得られること

青山美智子さんの『赤と青とエスキース』は、一枚の絵画を軸に人々の人生が交錯していく連作短編集です。
読んで得られるものは大きく三つあります。

  1. 人との縁の大切さ ― 偶然の出会いが人生を変えること。
  2. 芸術の力への気づき ― 絵画や額縁といったものが人の心を支え、記憶を繋ぎとめること。
  3. 生き方のヒント ― 恋愛、友情、仕事、挫折…それぞれの物語に共感しながら、自分の人生を見直すきっかけをくれること。

単なる恋愛小説でもなく、芸術論に偏るわけでもなく、心にじんわりと残る「人生小説」でした。
ここからは、本の魅力を丁寧にお伝えしていきます。


一枚の絵「エスキース」が語りかける物語

「エスキース」とは、画家が本番の絵を描く前に描く下絵のこと。
この物語では、一枚の「エスキース」が長い時間をかけてさまざまな人々の手を渡り歩き、それぞれの人生に深く関わっていきます。

ただのモチーフや小道具にとどまらず、この絵は「人の心を見つめる鏡」として存在しています。
誰かの喜びや後悔、愛や喪失――そのすべてを静かに受け止め、証人のようにそこにあり続けるのです。


誰におすすめか?

  • 20代の方へ
    海外留学や恋愛、将来への迷いを抱えている人に。
    レイとブーの関係に、自分の過去や憧れを重ねられるかもしれません。
  • 30〜40代の方へ
    仕事での悩み、夢と現実の間で揺れる気持ちを持つ人に。
    額縁職人の空知や、漫画家を目指すタカシマの物語は胸に刺さります。
  • 50代以降の方へ
    人生の転機や健康の不安、かつての恋との向き合い方を考えている人に。
    茜と蒼の物語は、年齢を重ねたからこそ響く切実さがありました。

つまり、この本は「人生のどの時期にいる人にも届く」作品です。
それぞれの年齢で、響く場所が変わってくる一冊だと思います。

芸術をテーマにした小説といえば、宮下奈都さんの『羊と鋼の森』もおすすめです。
ピアノ調律師として生きる青年の成長を描いた物語で、『赤と青とエスキース』と同じように「ものづくりに込められた想い」を感じられます。
👉 『羊と鋼の森』レビューはこちら


どんなシーンで読みたいか?

  • 夜、静かな時間に
    一話ごとに区切りがあるので、就寝前の読書にぴったり。
    ゆっくりと心に沁みてきます。
  • 美術館を訪れる前や後に
    絵画を観る目が変わること間違いなし。
    「額縁に込められた思い」にまで注目したくなります。
  • 人生に迷ったときに
    自分の歩んできた道や、これからの選択を考えるきっかけになります。
    読みながら「私もこんなことがあったな」と自然に振り返ってしまいました。

物語の魅力 ― 5つの短編とエピローグ

絵のエスキースのイメージ写真

1. 金魚とカワセミ

オーストラリアでの留学、恋の始まり、別れ。
若さゆえの不器用さが切なくて、思わず胸が熱くなりました。

2. 東京タワーとアーツ・センター

額縁職人として生きる青年の話。
「額縁は絵との結婚」という言葉が印象的で、芸術の世界を支える人の情熱に心を打たれました。

3. トマトジュースとバタフライピー

漫画家とアシスタントの関係。
努力と才能、嫉妬や劣等感。どれも人間らしくて、思わず「がんばれ」と応援したくなります。

4. 赤鬼と青鬼

50代で転職した女性の物語。
心の病と向き合いながら、過去の恋人と再び向き合う姿がリアルで涙を誘いました。

5. エピローグ

すべての物語がつながり、「エスキース」が持つ意味が明らかになる瞬間。
ここで一気に感情が押し寄せ、「ああ、こういうことだったのか」と鳥肌が立ちました。


読後に得られる気づき

1. 芸術は生き続ける

画家は亡くなっても、絵は人の心に生き続けます。
読み終えたあと、美術館の絵画をこれからは「時間を超えた証人」として見られる気がします。

2. 人生の選択に正解はない

二人は、その時々で迷いながらも「正解のない選択」を重ねていきます。
でも、その選択こそが人生を形づくっている。
私自身、「迷いも含めて自分の物語なんだ」と少し肩の力が抜けました。

3. 人は誰かに支えられて生きている

額縁職人、漫画家の師弟関係、恋人、猫――。
誰も一人で生きているわけではない。
「あなたがいたから今の私がある」と思える相手を、読みながら思い浮かべました。


私の読書体験から

絵画の展覧会のイメージ写真

正直に言うと、最初は「絵画がテーマの小説って難しそう」と身構えていました。
でも読み進めるうちに、絵画の専門知識がなくても十分楽しめる物語だとわかりました。

むしろ「芸術って、こんなにも人の心に寄り添えるんだ」と気づかせてもらえたんです。

好きなシーンのひとつは、茜が猫と過ごす場面です。
不安や孤独で押しつぶされそうだった彼女が、猫に寄り添われることで少しずつ落ち着きを取り戻していく。
その穏やかな変化がとてもあたたかく感じられました。


まとめ ― 時間を超える一枚の絵に出会う物語

『赤と青とエスキース』は、

  • 恋愛の甘酸っぱさ
  • 友情の複雑さ
  • 仕事への情熱と挫折
  • 年齢を重ねたからこそ抱える不安

そうした人生のさまざまな断面を、ひとつの絵がつなぎとめていく物語です。

絵画に詳しくなくても、必ず自分に重なる部分が見つかります。
むしろ「美術館で絵を見る目が変わる」体験をくれる一冊でした。


読んでみたい方へ

  • 若いころの恋を思い出したい人
  • 今の仕事に迷いを感じている人
  • 芸術や絵画に少しでも興味がある人
  • 人生の節目に立っている人

そんな方にぜひ読んでほしい本です。

読後はきっと、心の奥に静かに残り続ける「一枚の絵」に出会った気持ちになるはずです。


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