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6人の“月収”から見えてくる、人生の本当の豊かさ

原田ひ香『月収』書影 - 月にいくらあったら幸せかを描く6つの物語 原田ひ香

1. はじめに──お金は人生のすべてか?

原田ひ香さんの『月収』は、お金を軸に6人の人生を描く連作短編集です。
登場するのは、年齢も立場も背景もまったく異なる人たち。
老後資金に悩む女性、夢と生活の狭間で揺れる作家、将来を見据えて投資に挑む会社員、パパ活で高収入を得る若い女性、経済的には裕福でも孤独を抱える未亡人、そして起業を目指す若者。

それぞれが「月収」という現実的なテーマの中で、自分なりの答えを探しながら生きています。
ただし本作は、単なるお金の指南書ではありません。
むしろ「お金を通して見える人間模様」や「価値観の揺らぎ」がじっくり描かれており、読者は登場人物の喜びや葛藤に共感しつつ、自分自身の生き方を振り返ることになるでしょう。


2. 誰におすすめか

  • 40〜60代:年金や老後資金、生活のやりくりに不安を感じている方
  • 20〜30代:副業や投資に興味があり、働き方や収入の選択肢を広げたい方
  • お金の価値観を整理したい人:稼ぐことと幸せの関係を見つめ直したい方
  • 人間ドラマが好きな方:お金をきっかけに交差する人間関係や感情の変化を味わいたい方

3. あらすじと登場人物たち

3-1. 響子編:老後の自立と挑戦

66歳の乙部響子は、60代で人生の大きな転換期を迎えます。
長く連れ添った夫との結婚生活は、ある出来事によって終わりを告げました。小さな家と限られた貯金、そして年金月4万円という現実。
娘は育児に追われ、頼ることも難しい。生活は毎月ぎりぎりで、気持ちまで萎んでいくような日々が続きます。

「自分の力でなんとかしなければ」。
響子はそんな思いから行動を起こします。シルバー人材センターで仕事を探してみたり、体験を重ねたり。しかし現実は、体力的にも精神的にも簡単には続けられそうにありません。

そんなある日、思いがけない出会いが訪れます。日常の延長線上にぽんと現れた人物が、響子に新しい収入の可能性を示してくれたのです。
最初は半信半疑で始めたその仕事も、やってみれば意外と楽しく、生活に少しの余裕と張り合いをもたらします。

しかし、この新しい日々は長くは続かないかもしれない──。
響子はそこで、ある大切なことに気づき始めます。それはお金そのもの以上に、自分の足で立つための覚悟と行動でした。


3-2. 成美編:夢とお金のはざまで

31歳の大島成美(ペンネーム鳴海しま緒)は、華々しいデビューを飾ったものの、その後はなかなか結果を出せずにいました。
生活のために書くのか、夢を追いかけるために書くのか──その答えを探しながら、日々原稿に向かいます。

そんなある取材で耳にしたのが、不動産にまつわる話。これまで考えもしなかったお金の使い方や資産の持ち方が、成美の中で新しい興味を呼び起こします。
小説の題材として、あるいは生活を支える手段として……気づけば、その世界に少しずつ足を踏み入れていました。

しかし、何かを手に入れるということは、別の何かを手放すことでもあります。
夢と現実、創作と生活、理想と数字──そのはざまで揺れ動く成美に、ある人物の言葉が強く響きます。
それは、彼女のこれからを大きく方向づける問いかけでした。


3-3. 明海編:投資で未来を切り開く

29歳の滝沢明海は、幼い頃から母親の強い干渉を受けて育ちました。
「もっと安定した仕事に」「早く結婚を」と繰り返される言葉に息苦しさを感じ、ついに家を出ます。

自分の未来を自分で決めるため、明海が選んだのは投資という道でした。
日々の暮らしを引き締め、小さな額からでも資産を積み上げる。その過程は地道で地味ですが、彼女にとっては自由を得るための第一歩でもあります。

そんな生活を続けるうちに、数字が増える喜びと同時に、「お金を増やすこと」と「それをどう使うか」はまったく別の問題だと気づき始めます。
家族との距離、老後への備え、自分が本当に望む生き方──投資は単なる資産形成ではなく、人生の選択を見つめ直すきっかけになっていきます。


3-4. 瑠璃華編:パパ活の裏側

26歳の瑠璃華は、人にはなかなか明かせない収入源で、自分なりの豊かな暮らしを築いていました。
高額な契約や贅沢な贈り物が日常にありながら、その裏側には常に不安と緊張がつきまといます。
相手の気分ひとつで関係が終わるかもしれない──そんな危うさを、心のどこかで感じながらも、日々をやり過ごしていました。

そんな中で出会ったのが、優雅な余白をまとう、不可解な鈴木。
何気ない会話や食事の時間が、瑠璃華にとっては意外なほど心地よく、久しぶりに素直な自分でいられる時間でした。
そのやり取りを通して、自分が歩んできた道や選んできた生き方を振り返ることになります。
そして、彼女は少しずつ「お金」と「自分らしさ」の関係を見直し始めるのです。


3-5. 菊子編:富を持つ者の孤独

52歳の鈴木菊子は、経済的には何不自由ない暮らしを送っていました。
朝はゆったりと珈琲を飲み、株の動きを確認することから一日が始まります。お金は十分にある、時間もある──けれど、心の奥に広がるのは、不思議な空白でした。

そんなある日、思いがけない出来事をきっかけに、これまでほとんど接点のなかった人々と関わるようになります。
それは、彼女の生活に少しずつ新しい風を送り込みます。
誰かと食卓を囲む温かさや、必要とされる喜び──富や資産とは違う種類の満足感が、静かに彼女の中に芽生え始めていました。

菊子は、自分が本当に望んでいる豊かさの形を、少しずつ見つけつつあったのです。


3-6. 静枝編:人を幸せにする起業

22歳の斎藤静枝は、幼い頃から施設で育ちました。
守ってくれる家族はいなかったけれど、その分、自分の力で道を切り開く覚悟は人一倍。
人の役に立ちながら収入を得る方法を探す中で、とある分野に大きな可能性を見いだします。

新しい挑戦は、もちろん順風満帆ではありません。
思い通りに進まないことも、予想外の助けが差し伸べられることもあり、そのひとつひとつが静枝の経験となって積み重なっていきます。
そして、その過程で出会った仲間たちや関わった人々が、彼女の人生観に大きな影響を与えていきます。

静枝にとって仕事とは、単なるお金を稼ぐ手段ではなく、「自分と相手の両方を幸せにする行為」へと変わりつつあったのです。


4. どんなシーンで読みたいか

  • 将来の家計や老後の資金計画を考えたいとき
  • 副業や投資に興味を持ち始めたとき
  • 人生の転機や迷いの時期に、自分の価値観を見直したいとき
  • 「お金」と「幸せ」の関係にモヤモヤしているとき

5. 読後に得られる気づきと変化

この本を通して感じるのは、「お金=幸せ」ではないということです。
資産が増えても、使い方や生き方が伴わなければ、心は満たされません。

  • 人とのつながりが人生を豊かにする
  • お金は目的ではなく手段
  • その時の自分に合った挑戦が大切

読後は、自分の月収や貯金額ではなく、「どう生きたいか」を考えるきっかけになります。


6. まとめ──月収の多寡よりも大切なこと

『月収』は、お金に関するリアルな悩みや工夫を描きながらも、最終的には「どう生きるか」を問いかける物語です。
登場人物たちの人生に寄り添いながら、自分の価値観を見直す時間が持てます。
お金を増やすことも大切ですが、その先にある「自分らしい生き方」を見つけることこそ、真の豊かさなのだと感じられる一冊です。


気になった方はこちらからチェックしてみてください。

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