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誰かがいる。でも見えない。――乙一『暗いところで待ち合わせ』感想とレビュー

小説『暗いところで待ち合わせ』乙一の文庫版表紙。盲目の女性と殺人容疑者が同居するサスペンス作品。 乙一

1. 作品概要

『暗いところで待ち合わせ』は、乙一さんが描く心理サスペンス小説。
駅のホームで起きた殺人事件と、視覚を失った女性の静かな暮らしが、思わぬ形で交錯します。
「殺人犯」と「盲目の女性」という、絶対に交わらないはずの二人が、声を交わさずに同じ時間を過ごす。
その関係は奇妙で、どこか切なく、やがて読者の心を温めるものへと変わっていきます。

本作は、事件の真相を追うスリルだけでなく、孤独と孤独が触れ合う瞬間のぬくもりを描いた作品です。


2. あらすじ

本間ミチルは事故で視力を失い、一人暮らしをしています。
外の世界に出る勇気を失い、淡々とした日々を送っていたある日、警察が訪ねてきます。
「不審な人物を見なかったか?」
もちろん答えは「見えるはずがない」。
それでも、窓の外のパトカーのサイレンや、慌ただしい人の足音に、何かが起きていることを感じ取ります。

そのころ、駅のホームで上司を突き落としたと疑われる男・大石アキヒロは、逃走の末、偶然ミチルの家に忍び込みます。
ミチルは、家の中のパンが減っていることや、布の擦れる音などから、人の気配を確信しますが、身を守るために“気づかないふり”をします。
アキヒロもまた、自分が気づかれていることを感じつつ、拒絶されることを恐れ、姿を現しません。

ある日、棚の上の皿を取ろうとしてミチルが転倒しかけた時、頭上から落ちそうになった大きな土鍋が、なぜか落ちてこなかった――。
その瞬間、ミチルは「この部屋にいる誰かは、自分を傷つけるつもりはない」と悟ります。

それ以来、二人は言葉を交わさないまま、同じ空間にいることを受け入れ、奇妙な同居生活を続けていきます。
緊張感の中で、互いの存在は少しずつ心の支えとなっていきます。


3. 登場人物と魅力

  • 本間ミチル
    事故で視力を失い、外の世界との関わりを避ける女性。表向きは冷静でも、心の奥底では人恋しさを抱えています。
  • 大石アキヒロ
    殺人容疑で追われる男。人との距離感が不器用で、職場にも馴染めず孤立気味。逃亡中に出会ったミチルの存在に、次第に心を救われていきます。
  • カズエ
    ミチルの幼なじみ。外に出るよう何度も促すが、思いは届かずすれ違いが生じます。
  • ハルミ
    近所に住む女性。偶然を装ってミチルに近づき、友人関係を築きますが、その接近には事件と関わる別の目的が――。

4. 物語に流れるテーマ

この作品の核にあるのは「孤独」と「つながり」です。
視覚を失ったミチルと、追われる身のアキヒロ。
二人はお互いを“見られない”立場にありながら、気配や行動を通して心を通わせていきます。

  • 見えないからこそ感じられる本質
    ミチルはアキヒロの顔を知らないまま、彼の優しさや人柄を感じ取ります。
  • 受け入れられる喜び
    アキヒロにとって、捕まる恐怖よりもミチルに拒絶される恐怖の方が大きい。受け入れられた瞬間、その孤独は溶けていきます。

5. 誰におすすめか

  • 静かな緊張感と人間ドラマを同時に味わいたい人
  • 心理戦や“見えない相手”との駆け引きに惹かれる人
  • 孤独や疎外感をテーマにした作品に共感できる人
  • ただの事件解決ではなく、人物の心の動きに重きを置く物語を求める人

6. どんなシーンで読みたいか

  • 夜の静けさが支配する時間
  • 雨の日や曇り空の午後、外が少し暗いとき
  • 移動中や旅先で、一気に物語に没頭したいとき

特に夜に読むと、ミチルが感じた“気配”や“音”の描写が、自分の部屋にも忍び寄るような感覚をもたらします。


7. 読後に得られる気づきや変化

  • 見えないからこそ届く温もり
    人は視覚以外の感覚で、相手の優しさや敵意を感じ取れる。
  • 孤独の中で芽生えるつながり
    どんな状況でも、人は誰かと心を通わせる可能性を持っている。
  • 本質を見抜く力
    外見や立場に惑わされず、相手を理解する大切さ。
  • 受け入れる勇気
    恐怖よりも、受け入れられることの喜びが人生を変えること。

8. 感想と作品の価値

『暗いところで待ち合わせ』は、サスペンスとしてのスリルと、人間ドラマとしての温かさが同居する稀有な作品です。
視覚を失った女性と、殺人容疑で追われる男。普通なら交わらない二人が、同じ空間で過ごすうちに、互いの存在を必要としていく――。

読んでいて、ページをめくる手が止まらない緊張感があります。
しかし同時に、「人と人がつながる瞬間」の美しさが、静かに胸を打ちます。

この物語を読み終えると、あなたも「見ること」と「見えないこと」の意味を、きっと違った視点で考えるようになるでしょう。
そして、夜にふと耳を澄ませ、部屋の静けさの中に誰かの気配を探してしまうかもしれません。

孤独に寄り添い、心を温める――それが、この作品の本当の魅力です。


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