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【書評】『同志少女よ、敵を撃て』逢坂冬馬|戦争の正義と憎しみを問う、ひとりの少女の壮絶な成長譚

逢坂冬馬『同志少女よ、敵を撃て』書影|女性狙撃兵セラフィマの成長と戦争の悲劇を描く話題作 逢坂冬馬

1. はじめに

もし、すべてを奪われたら——
あなたは何のために戦いますか?
そして、どこまでが“正義”だと信じられますか?

逢坂冬馬さんの『同志少女よ、敵を撃て』は、そんな問いを突きつけてくる物語です。
本書は、第11回アガサ・クリスティー賞を受賞し、2022年の本屋大賞でも第1位に輝いた話題作。
舞台は、第二次世界大戦下のソ連。ドイツ軍に村を焼かれた少女が、女性狙撃兵として戦場に身を投じていく姿を描いた長編小説です。

物語はフィクションでありながら、あまりにもリアル。
その背景には、著者が膨大な資料や戦争手記を読み込んだ事実に基づく緻密な構成があります。

この物語を読むことは、単に戦争を知るだけではありません。
戦争の中で生きた「ひとりの少女の魂」と出会うことなのです。


2. どんな人におすすめか

この本は、以下のような方に深く刺さる作品だと思います。

  • 歴史や戦争文学に関心がある方
  • 女性の視点で描かれた物語を求めている方
  • ジェンダーや暴力の問題に興味がある方
  • 「正義」と「敵」の境界がわからなくなってきた人
  • 今の世界情勢に心を痛めている人

戦争を描いた物語は数多くありますが、本書がユニークなのは「女性が戦うこと」に真正面から向き合っている点です。
被害者としてだけでなく、加害者にもなりうる存在として、少女たちが描かれている。その視点は決して軽くありませんが、だからこそ心に残るのです。


3. どんなシーンで読みたいか

  • ニュースで戦争の映像を見て、胸がざわついた時
  • 「正しさ」に疲れて、自分の信念がわからなくなった時
  • 自分にとって本当に大切なものは何か、見つめ直したい時

読むには少し覚悟がいる本です。ですが、心の奥に静かに火を灯してくれるような読書体験が待っています。
ひとりでじっくりと向き合える時間に読むのが、おすすめです。


4. あらすじと印象的な場面

物語は、少女セラフィマと母エカチェリーナが森で狩りをしている場面から始まります。
彼女たちは獲物を「楽しみや腕試し」で狩るのではなく、命を敬いながら必要なときだけ狩りをしていました。

ある日、狩りから戻った彼女たちの村が、ドイツ兵によって襲撃されます。母は撃ち殺され、村人も皆殺しにされ、セラフィマ自身も危うく暴行されかけたその瞬間、赤軍が到着して命を救われます。

母と村の仇を討つため、彼女は赤軍の女性狙撃兵養成学校へ向かう決意をします。
厳しい訓練をくぐり抜け、仲間と心を通わせながら、セラフィマは成長していきますが、それは人を撃つための「狙撃兵」としての訓練でもありました。

初めての実戦で、仲間のアヤが戦死し、セラフィマは心が折れかけます。それでも再び立ち上がり、「女性を守るために戦う」と自分に言い聞かせて前線へ。

しかし、戦場の現実はさらに残酷でした。
非戦闘民であるはずの子供を平然と撃つ兵士、自分の“スコア”を誇る仲間たち。
かつて母を殺した側と同じ場所に、自分もいつの間にか立っていたのだと、彼女は気づき始めます。

戦場で再会した幼なじみのミハイルからは、「女性を犯すのは仲間意識を深めるための儀式みたいなもの」とまで語られます。

そんな狂気の中でも、セラフィマは「自分の正しさ」を探し続けます。
ついには、母を殺した宿敵イエーガーと対峙し、復讐を果たしますが、それもまた心を空虚にする出来事に過ぎませんでした。


5. 読後に得られる気づき・変化

この本を読み終えた後、言葉に詰まりました。
「良かった」や「感動した」では片付けられない。
それほどまでに、セラフィマの体験と、彼女が背負ったものの重さが、胸に残るからです。

印象的だったのは、セラフィマが笑顔でスコア(殺した人数)を語る場面。
それは決して狂気ではなく、生き残るために選んだ“自分を守る術”でもありました。

敵を倒すたびに、心は少しずつ削られていく。
仲間の死に直面し、自分の命も明日にはないかもしれない中で、「なぜ自分はここにいるのか」と問わざるを得ない。

戦争は、人の良心を踏みにじります。
「正義」という言葉が、空虚に響く世界で、どう生きればいいのか。
この作品は、その苦しい問いを、読者一人ひとりに手渡してくるのです。


6. 今、読むべき理由

この物語を「過去の戦争」として片付けることはできません。
今まさに、ロシアがウクライナへ侵攻しているこの時代に、ソ連を舞台にした戦争小説を読む意味は、あまりにも大きいのです。

戦争は、すべてを奪います。
命も、誇りも、心も。

それでもなお「戦わなければならない」と思ったとき、何を信じて銃を構えるのか。
それが「正義」だと、自分で思えるのか。

本書は読者に、“加害者になるかもしれない自分”と向き合うように迫ってきます。
そして同時に、「今ここにいる私たちがどう生きるか」を問いかけてくる。

これは戦争の本ではありません。
生きるために、どう戦うのか。
そして、生き延びたその先に何があるのかを描いた、人間の物語です。


7. まとめ

『同志少女よ、敵を撃て』は、読み手の魂を揺さぶる作品です。
戦争文学というジャンルにとどまらず、「人間とは何か」を深く見つめさせられる力がこの作品にはあります。

セラフィマのまなざしを通して見える世界は、静かに、そして確実に、私たちの心に問いを残します。
「敵とは誰なのか?」
「正しさとは何か?」
「そして、平和とは——?」

たったひとりの少女の叫びが、時代と国境を越えて、現代を生きる私たちに響いてくる。
この本が、多くの人の手に渡り、ひとつの気づきとなり、争いのない未来への願いとなりますように。


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