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【書籍紹介】『怖い患者』久坂部羊|その感情、狂気と紙一重?

久坂部羊『怖い患者』の書影。3つの仮面が印象的なホラー風医療短編集のカバー画像 久坂部羊
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1. 本書は誰におすすめか

  • 精神的な揺らぎを感じている方
  • 医療現場や医者と患者の関係に興味のある方
  • 人間の心理や内面の闇に惹かれる読書が好きな方
  • コロナ禍以降、「何を信じればいいのか」不安になった経験がある方
  • 短編でも骨太な読み応えを求める人

自分は普通、正しい、まとも――そんな思い込みが壊れていく瞬間に、興味や恐れを抱いたことがある人なら、この本は刺さるはずです。

医者の視点、患者の視点、その両方を通じて浮かび上がる“人間の心のもろさ”。まるで鏡をのぞき込むように、自分自身の中に潜む闇と向き合う読書体験になるでしょう。


2. どんなシーンで読みたいか

  • 夜、静かな時間にじっくりと
  • 心理的サスペンスやヒューマンドラマが読みたいとき
  • 精神的にもやもやしていて、それを文字で吐き出したくなるようなとき
  • 他人の“裏の顔”を覗いてみたくなったとき
  • 誰かの一言にモヤっとしてしまった帰り道

スリルや知的刺激を感じながら読めるので、気分転換にもなります。ただし、読後に心のザワつきが残るかもしれません。寝る前に読むと、ちょっと怖い夢を見るかも?


3. 『怖い患者』とはどんな本?

医師であり作家でもある久坂部羊さんによる、5編の短編から成る心理医療小説集。

この本に出てくる“怖い患者”たちは、決して特別な人ではありません。パニック症、過呼吸、妊娠、流産、老化、テレビ出演、ワクチン接種など、私たちの身近にある出来事をきっかけに、彼らの心が少しずつ、でも確実に歪んでいきます。

どれも現実味があり、「もしかしたら自分も、誰かにとっての怖い患者なのかも」と思わずにはいられない、そんな物語です。

医療の専門知識に基づいた描写もリアルで、読者は登場人物の呼吸や鼓動まで感じられるような臨場感を味わえます。病気そのものよりも、病気によってあぶり出される“人間の本性”に焦点を当てているのが特徴です。


4. 短編それぞれの怖さと魅力

第一話:思い込みが現実をねじ曲げる

原因不明の体調不良に悩まされる女性が、心を許した医師の“別の顔”を知ってしまい、暴走していく話。ストーカー被害者と加害者の境界線が溶け出す恐怖は、SNS時代に通じるものがありました。

冷静に見れば何の根拠もない思い込みが、確信へと変わっていく過程が巧みに描かれていて、読者は自分がどこまで信じていいのか分からなくなってきます。信じたくなる「物語」が、事実よりも力を持ってしまう危うさが怖い。

第二話:他人の不幸を喜ぶという感情

テレビ出演で成功を手にする女医。しかし周囲からの嫉妬、そして自分自身の中にある「他人の不幸が嬉しい」感情に気づいたとき、彼女の世界は崩れていく。不幸を装ってまで得たい承認欲求の行きつく先に、鳥肌が立ちます。

“幸せそうな人”が羨ましいのではなく、“不幸そうな自分”でいる方が楽――そんな歪んだ認識が生まれてしまう心の構造に、人間の弱さを感じました。

第三話:誰も信用できない世界

匿名の手紙をきっかけに疑心暗鬼になる妊婦。家族も友人も信用できず、全員が敵に見えてしまう心理の描写がリアル。不安や妄想が現実を蝕む恐怖を、読者も体験させられます。

一見平和な家庭やコミュニティが、少しの不安で壊れていく。その脆さは、決して他人事ではありませんでした。

第四話:善意のつもりがトラブルの火種に

老人が集うデイサービスの現場で起きる小さな衝突の連鎖。認知症や入れ墨のある入居者、入浴中の事故……一つひとつが現実にありそうで、読者は「対岸の火事」とは思えなくなるでしょう。

善意の行動が、必ずしも善い結果を生まないこと。公正を保とうとするほど、摩擦が増える現実。人を「正しく扱う」難しさが、静かに心に刺さります。

第五話:病気の真実とは何か

副作用に苦しむ若い女性が被害者団体に所属し、メディアの注目を集めるも、次第に“真実”が揺らいでいく。物語の終盤で、患者が副作用の原因だと信じていた“ミシュリン”という薬が、実は自分に投与されていなかったと判明する場面は非常にショッキングでした。

患者が信じていた「原因」と、実際の「事実」との間にある深い溝。それは、近年話題になったワクチンの副作用や薬害報道のように、情報の真偽が複雑に絡み合う現代社会そのものを映し出しています。何が真実で何が誤解なのか、誰もが簡単には判断できないという現実を突きつけられます。


5. 読後に得られる気づきと変化

  • 「自分は大丈夫」と思っていたことの危うさに気づく
  • 医者と患者、どちらが“正しい”かなど簡単に決められないと感じる
  • 思い込みや感情が人を壊していく様が、静かに怖い
  • 心の闇は誰にでもありえると知り、他人に対しても少し優しくなれる
  • コロナ禍以降の「情報の真偽」とどう向き合うか、考えさせられる
  • 正義感や被害意識が強すぎるとき、自分を見失うリスクがあると知る

この本は“患者”や“医者”という立場に限らず、人と人が関わる中で、誰でも陥る可能性のある心の迷路を描いています。


6. まとめ|人の心に棲む闇を見つめる一冊

久坂部羊さんの『怖い患者』は、怖いけれど、面白い。どの話も、「実際にありえそう」というリアリティが強く、人の心理や社会との関わりに深く切り込んでいます。

感情や思い込み、被害者意識が過剰になると、誰もが“怖い存在”になり得る。それは患者も医者も変わらない。そう教えてくれる物語でした。

自分が被害者だと思っているときほど、実は誰かを傷つけているかもしれない――そんな視点を与えてくれる本書は、読む人の心に静かな問いを残します。

本を閉じたあと、少しだけ自分の心の中を覗いてみたくなる。そんな余韻を残してくれる短編集です。

人間の黒い部分に目を背けず、でもそこに希望を見出したい。そう思える読者に、ぜひ手に取ってほしい一冊です。

読者として、「人間を描くとはどういうことか」を深く考えさせられる一冊でした。


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