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【読了レビュー】『成瀬は信じた道をいく』宮島未奈|まっすぐすぎる彼女に惹かれずにいられない

小説『成瀬は信じた道をいく』表紙イラスト|著:宮島未奈|本屋大賞ノミネート作の続編 宮島未奈

前作『成瀬は天下を取りにいく』の記事はこちら

1. はじめに:再び、成瀬が帰ってきた

『成瀬は天下を取りにいく』で多くの読者に強烈な印象を残した成瀬あかり。
前作の衝撃から、「続きが読みたい」「成瀬にまた会いたい」と願っていた方も多いのではないでしょうか。

そしてついに届けられた本作、『成瀬は信じた道をいく』。
期待を裏切らず、むしろ「さらに進化した成瀬ワールド」が広がっていました。

今作は5つの短編で構成されており、どれも成瀬と彼女の周囲にいる人物たちの視点で描かれます。
ただ一つ共通しているのは、皆が「成瀬という人間に引かれていく」ということ。
それは恋でも憧れでもなく、“惹きつけられてしまう”といった、もっと原始的で純粋な感情。


2. 短編集としての魅力と登場人物たち

短編集の構成が見事なのは、成瀬の人物像が読むごとに少しずつ輪郭を深めていくことです。
各編の主人公たちは、成瀬とまったく異なる価値観や立場を持ちながら、次第に彼女に惹かれ、自分自身の内面と向き合うようになります。

  • 成瀬に憧れて一緒に地域パトロールを始める小学生・みらいちゃん
  • 成瀬の突き抜けた行動に戸惑いながらも愛情深く見守る父・慶彦さん
  • 自分の企画より奇妙な行動をとる成瀬に戸惑う大学のYouTuber
  • 日々の不満をクレームにぶつけていた主婦
  • 親子三代でびわ湖大津観光大使となった篠原かれん

それぞれの目線で描かれることで、成瀬という人物が単なる“変わった子”ではなく、“周囲に小さな変革をもたらす存在”であることがよくわかります。


3. 成瀬あかりという「現象」

大学受験を迎えても緊張しない成瀬。
合格発表を見て「受かってるとわかってても嬉しいものだな」と言う姿に、思わず笑みがこぼれました。
堂々としながらも可愛らしさを忘れない。そんなバランス感覚が、彼女の魅力なのだと思います。

成瀬は、自分に嘘をつかず、他人にも媚びない。
だからこそ、周囲の人々は「こんな人が本当にいるんだ」と戸惑いながらも、惹かれていきます。

成瀬は「現象」なんです。ただそこにいるだけで、空気が変わる。
だから何気ない一言にも重みがあり、行動が物語を動かしていくのです。


4. 父・慶彦さんの目線に泣けて笑える

本作で特に印象的だったのが、成瀬の父・慶彦さんの視点です。
“親”という存在は、ときに子の自由さに戸惑い、ときに信じたくても信じきれない矛盾を抱えます。

慶彦さんもまたその一人。
真っ直ぐすぎる娘・成瀬に対して、「大丈夫か?」と心配し、早とちりし、時に的外れなアドバイスをしてしまう。
だけど、そこには確かな愛と不器用な応援が詰まっていました。

読者としても「お父さん、がんばって!」とエールを送りたくなる、チャーミングな存在です。


5. 成瀬が巻き起こすポジティブな「変化」

面白いのは、成瀬が人を変えようと“していない”のに、周囲が勝手に変わっていくところです。

主婦はクレームという攻撃的な行動を見直し、自分の正義を貫く生き方に目覚め、
YouTuberは成瀬の不思議な行動をきっかけに、自分の表現に対する考え方を改めます。
そして小学生のみらいちゃんは、成瀬を“かっこいいお姉ちゃん”として素直に憧れ、行動を共にする。

成瀬は言葉で説得するわけではありません。
ただ、自分の信じた行動をブレずにやるだけ。
その姿勢が、周囲を静かに、でも確かに変えていくのです。


6. 大学生になった成瀬、進化する世界

前作では中学生だった成瀬が、今作では大学生になっています。
舞台が少しずつ広がっていく中でも、成瀬の芯は一切ブレない。

むしろ、年齢を重ねたことで物語のスケールも広がり、
“滋賀の成瀬”から“もっと大きな舞台へ”と進む準備が整ってきているようにも感じます。

それでも彼女は自分の速度、自分のやり方で一歩一歩進んでいく。
その姿を見ていると、読者としても「私も私のやり方でいいんだ」と思わせてくれるのです。


7. 読者の私たちも「登場人物の一人」になる

読み進めていくと、不思議な感覚に襲われます。
まるで自分も物語の中の登場人物の一人になったような感覚。

最初は違和感を持つけれど、成瀬と少しでも時間を過ごせば、気づけば惹かれている。
この気持ちは、登場人物たちだけではなく、私たち読者も同じなのです。

「こんな風に生きられたらいいな」
「怖がらずに、自分のしたいことを選んでみたい」

そんなふうに、自分の中の何かが静かに目覚めていくような、そんな読書体験が得られる作品です。


8. おわりに:この先もずっと成瀬を見ていたい

『成瀬は信じた道をいく』は、前作以上に“成瀬という生き方”を深く描き出した作品でした。
その強さとやさしさ、頑固さと素直さの絶妙なバランスが、読む人の心をじんわりと動かします。

私はこのシリーズが、まだまだ続いていってほしいと思います。
成瀬がどんな大人になって、どんな人たちと出会い、どんな世界を見ていくのか。
その物語を、これからも静かに、でも確かに見届けていきたい。

きっとまた、彼女に会いたくなる。
そして次の成瀬も、きっと私たちに「生き方って、自由でいいんだよ」と教えてくれるはずです。


📚 宮島未奈さん、そして成瀬あかりをまだ知らない方へ。
この本は、ただの青春小説ではありません。
あなた自身の“生き方”にそっと寄り添ってくれる一冊です。
ぜひ、ページをめくって、成瀬の世界に足を踏み入れてみてください。


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