1. 『ミーツ・ザ・ワールド』(著:金原ひとみ)あらすじと登場人物
『ミーツ・ザ・ワールド』は、27歳の銀行員・三ツ橋由嘉里と、歌舞伎町のキャバ嬢・鹿野ライの出会いを軸に展開する小説です。オタク気質で腐女子の由嘉里が、婚活中の合コンで泥酔し、偶然通りかかったライに介抱されたことから、まさかの共同生活が始まります。
由嘉里の推しは、焼肉を擬人化したBL漫画のキャラ。彼女は現実と妄想の間で揺れながら、現実世界の人間関係に踏み込んでいきます。一方のライは、生きることへの希望を持たない女性。彼女の「あるべき姿は消えていること」という発言が胸に刺さります。
ホストのアサヒ、中年のおかまバーマスター・オシン、生きる希望を見失った女流作家・ユキなど、どこにも行き場のないような人物たちが登場し、歌舞伎町の一角で奇妙で温かな人間関係を育んでいきます。
2. 「普通の幸せ」が通じない人たちがいる
由嘉里は当初、「普通に生きる」ことこそが幸せだと信じていました。しかしライやその周囲の人々と関わる中で、その価値観が揺らいでいきます。
キャバクラやホスト、夜職という自分には無縁だった世界に触れ、「同じ世界に生きていても、全く違う現実がある」ということを実感していきます。
この小説を読むことで、読者もまた「自分の常識は誰かの非常識である」という視点を持てるようになります。歌舞伎町という街の多様性が、その視野の広がりを自然と促してくれるのです。
3. 自分の幸せを押しつけていなかったか?
由嘉里がふと立ち止まるのは、母親からの言葉を思い出したとき。「こうした方がいい」「これが幸せだ」と、善意であっても誰かに自分の価値観を押しつけていなかったか。
ライとの出会いを通じて、そういった考え方を見直すきっかけになります。人には人の幸せがあり、必ずしも自分の考えが正解ではない。そんな気づきを与えてくれる物語です。
4. 会話のテンポとキャラの魅力が抜群
この小説の大きな魅力の一つが、登場人物同士の会話のテンポです。オタク由嘉里、死にたがりのライ、何でも話を受け止めてくれるアサヒ、やさぐれ作家ユキ…。それぞれの立場や背景から繰り出される会話には、リアリティと軽やかさがあり、読者を引き込む力があります。
登場人物たちの言動は一見突飛に見えますが、読み進めるうちに「なるほど」と納得させられる説得力があります。重たいテーマを扱いながらも読後感が優しいのは、こうした会話の巧さによる部分も大きいでしょう。
5. 人生の交差点としての歌舞伎町
歌舞伎町は、人生の端っこにいるような人たちが交差する舞台です。地獄のような生活をしているように見える彼らも、それぞれに小さな希望を持ち、生きています。
短い時間の中で築かれる不思議な人間関係は、振り返るとせつなく、そして愛おしい。どんなにままならなくても、人は誰かと繋がっていることで前に進めるのだと、静かに伝えてくれます。
6. BLやサブカル要素も自然に溶け込む
焼肉擬人化BLという突飛な設定も、この物語の中では自然に馴染みます。由嘉里の趣味が現実世界の人間関係にも影響を及ぼしていく描写は、オタク文化に親しんだ読者には特に刺さるはずです。
「推し」か「現実の誰か」かという揺らぎの中で、彼女が新たに見つけていくものもまた、大きな魅力となっています。
7. 『ミーツ・ザ・ワールド』はどんな人におすすめ?
この作品は、以下のような人に特におすすめです。
- 「生きづらさ」を感じているアラサー女性
- 腐女子・オタク気質の人
- 夜職やホスト文化に偏見はあるけど興味がある人
- 普通や正しさに疲れている人
「他人とわかり合えなくてもいい、でも否定せずに見つめてみよう」と思わせてくれる、優しい交差点のような小説です。
8. まとめ:ズレているからこそ、出会えた奇跡
『ミーツ・ザ・ワールド』は、自分とは違う世界に生きる人たちの価値観や人生を覗き見ることで、自分自身の見方も変えてくれる物語でした。
“ズレ”は拒絶する理由ではなく、出会いを生むきっかけになる。そんな優しい力を持った作品です。
重たいテーマの中に、笑いと希望と人間らしさが詰まった一冊。ぜひ、手に取ってみてください。
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