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隣人との距離が恋に変わる――砂村かいり『アパートたまゆら』

『アパートたまゆら』砂村かいり|隣人との恋を描く優しいラブストーリーの表紙画像

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この本で得られること

『アパートたまゆら』を読むと、人を好きになることの難しさと温かさ
そして「寄り添う」という行為の繊細さに気づかされます。

恋に臆病な人、完璧であろうとして疲れている人にとって、
この物語は「無理しなくてもいい」「素直でいるだけで愛される」という
小さな希望を灯してくれるはずです。


アパート「たまゆら」で生まれた恋

通勤中のバスの車内イメージ

木南紗子(きなみ さこ)は、少し潔癖ぎみな性格の女性。
生活も考え方も几帳面で、他人との距離をうまく取れない。
そんな彼女が東京で選んだ住まいが、古びたアパート「たまゆら」でした。

「たまゆら」という言葉には、“ほんのひととき”という意味があります。
つまりこの物語は、束の間の時間の中で、彼女が誰かを想い、
そして自分自身と向き合っていく“人生の一瞬”を描いているのです。


隣人・琴引泰而との出会い

ある夜、飲み帰りに家の鍵をなくしてしまった紗子。
廊下で項垂れていたところ、隣に引っ越してきた男性・琴引泰而(ことびき たいじ)に声をかけられます。

「よかったら、うち泊めますけど」

この何気ない一言から、物語が動き出します。

普段ならありえない――潔癖な彼女が他人の家に泊まるなんて。
けれど、彼の家は整っていて、どこか安心感があった。
その夜、紗子の心は少しだけ緩み、恋の芽が静かに芽吹きます。


「まったり恋愛もの」と思いきや、感情が波打つ展開に

最初は軽い気持ちで読み始めたのです。
“アパートのお隣さんとの恋”なんて、ありがちな設定だと思っていました。

けれど、ページをめくるうちに心がざわつく。
「早く告白して!」「久米、邪魔しないで!」と、
まるで親友の恋を見守るような気持ちで一喜一憂していました。

特に、元恋人の久米が登場する場面はハラハラの連続。
でも同時に、彼の不器用な一途さが妙に人間らしくて、
「本気で好きだったんだな」と思えてしまうのです。

登場人物全員が“リアルな感情”を抱えていて、
どこか欠けていて、だからこそ愛おしい。
そんな人間模様が丁寧に描かれていました。


主人公・紗子の成長 ― 「潔癖」という壁を越えて

紗子の潔癖さは、単なる性格ではなく「心の防衛反応」です。
清潔さにこだわることで、他人との距離を保ち、
傷つかないようにしていた――それが彼女の生き方でした。

でも、琴引さんとの出会いがそのバランスを少しずつ崩していきます。

彼の部屋で過ごす穏やかな時間、
アップルパイを焼いてお礼に行った日の高鳴り、
隣から聞こえる生活音に感じる“近さ”の幸せ。

そうした小さな日常の積み重ねが、
彼女の潔癖を少しずつやわらげていくのです。

恋愛によって誰かを変えるのではなく、
「一緒にいることで、自然と変わっていく」――
その描き方がとても美しく、まるで朝の光のようにやさしい。


琴引さんの優しさと「過去」

琴引泰而は、完璧すぎない完璧さを持つ男性です。
清潔感があり、落ち着いていて、でもどこか影がある。
その穏やかな笑顔の奥に、かつての痛みや後悔が潜んでいるようで――
読者は少しずつ、彼の中にある“静かな傷”を感じ取っていきます。

過去を完全に消すことはできない。
それでも、今をまっすぐに生きようとする。
そんな彼の姿に、紗子だけでなく読む側の心までも引き寄せられていくのです。

琴引さんという人物は、恋の理想像ではなく、
「人は誰しも過去を抱えて生きている」という現実の優しさを教えてくれる存在。
彼の不器用な誠実さに触れるたび、
“本当の大人の恋”とはこういうものかもしれない――そう思わされました。


久米という存在 ― 愛のもう一つの形

久米は、紗子の高校時代の初恋相手。
少し頼りなくて、でも真っすぐな人。

再会したとき、彼は居場所を失っていました。
仕事もうまくいかず、心も少し壊れている。
そんな彼が、紗子の元を訪れた理由は――ただ「もう一度会いたかった」だけ。

読んでいて思いました。
人って、うまくいかないときほど“過去の安心”に戻りたくなる。
でも、紗子にとって久米はもう「過去」なんです。
恋ではなく、思い出。

それでも、久米のまっすぐな想いにはどこか共感してしまいました。
読み終えたあと、私は思わず「彼にも幸せになってほしい」と思ってしまいました。
これは、きっと私自身が久米のように“過去を引きずる人”の気持ちをどこかで分かっているからかもしれません。
そんな風に、登場人物ひとりひとりの感情に寄り添いたくなる――そこに、この作品の優しさがあるのだと思います。


登場人物たちがつくる「人間のぬくもり」

アパートの部屋のイメージ写真

『アパートたまゆら』の魅力は、恋愛だけでなく、人と人とのつながりが丁寧に描かれているところにもあります。

たとえば、
カレーを振る舞う府川さん、
隣人の琴引さん、
上の階のシングルマザー・佐藤さんとその息子のマナト、
そして少しクセのある住人・多田さん。

彼らはそれぞれ異なる生活を送りながらも、
同じアパートの屋根の下で、日々の小さな出来事を共有している。

傷ついたり、恋をしたり、支え合ったり――。
ときに他人のようで、ときに家族のようでもある彼らの関係が、
この物語をやさしく包みこんでいます。

アパートという空間が、まるで“人のぬくもりの集合体”のように感じられる。
それは、恋愛小説を超えた「人生の断片」を見せてくれるような心地よさがあります。


誰におすすめか

この本は、次のような人に特におすすめです。

  • 恋に臆病な30〜40代の女性
  • 「人との距離感」に疲れている人
  • 日常の中に“きゅん”を見つけたい人
  • 綺麗すぎないリアルな恋愛を読みたい人

また、こんなシーンで読むと心に沁みます。

  • 休日の午後、コーヒーを淹れて一人の時間に
  • 恋愛ドラマを観る気力がない夜
  • 仕事に疲れた帰り道、電車の中でゆっくりと
  • 「誰かを想う」って何だろう?と考えたくなったとき

同じように“人と人との温かいつながり”を描いた作品としては、
『阪急電車』(有川浩) も思い出しました。
日常のささやかな出会いが、誰かの人生を少しだけ変えていく――そんな優しさが共通しています。


読後に得られる気づき

読み終えたあと、心に残ったのは「寄り添う」という言葉でした。

恋とは、相手を変えることでも、完璧を求めることでもない。
相手の“ままならなさ”ごと受け止めて、
ただ一緒に時間を重ねていくこと。

それが、愛なのだと思いました。

紗子は、潔癖という壁を抱えながらも、
琴引さんとの時間の中で“完璧じゃない自分”を受け入れていきます。

そして、読み終えて気づいたのは、
誰かを好きになるって「努力」じゃなく「自然な想い」なんだということ。
愛されたいから頑張るのではなく、好きだからこそ大切にしたくなる。
紗子の姿を見ていて、そんな当たり前のことを思い出しました。

恋愛小説としても、人生小説としても、
この「好きだからこそ大切にしたくなる」という想いこそが、
『アパートたまゆら』の本質なのだと思います。


人の感情をここまで描ける作家 ― 砂村かいりさんの筆致

砂村かいりさんの作品は、会話の“間”や感情の“沈黙”がとても巧みです。
派手な展開ではなく、あくまでリアル。
一見地味に思える描写の中に、人の心の揺れが詰まっています。

特に印象的なのは、琴引さんと紗子のやり取りの“温度差”。
お互い惹かれ合っているのに、なかなか近づけない。
けれど、その距離感こそがこの物語の美しさです。

恋愛は、燃えるような激情だけで成り立つものではない。
静かな時間、何気ない優しさ、
その積み重ねこそが“愛”を育てる。

それを砂村さんは、言葉少なに伝えてくれます。


私が感じたこと ― 恋の不器用さは、愛の証

うまく言えないけれど、読みながら何度も胸がぎゅっとしました。
恋って、本当に理屈じゃない。
「好き」という気持ちは、清潔でも整ってもいなくて、
むしろぐちゃぐちゃで、面倒くさいもの。

でも、その“面倒くささ”こそが、
人を人たらしめる愛しさなんだと思います。

私自身も、誰かを想うたびにうまく言葉にできなくて、
後悔したり、嬉しくなったりしてきました。
この物語は、そんな自分の過去の恋愛にもそっと寄り添ってくれました。


まとめ ― 恋する勇気を、もう一度

『アパートたまゆら』は、恋に疲れた大人たちにそっと寄り添う物語です。
派手な展開はありません。
けれど、心の奥を静かに照らしてくれるような温かさがあります。

読後に残るのは、“きゅん”ではなく“じんわり”。
この「じんわり」が、きっとあなたを優しく包んでくれます。

恋をしてみたい人にも、
恋を忘れてしまった人にも、
この物語はきっと小さな勇気をくれるはずです。


💬 一言でまとめると
隣人との恋にハラハラしながらも、最後には心がぽっと灯る。
不器用な大人の恋に、“寄り添う勇気”をもらえる物語。


📚 『アパートたまゆら』/砂村かいり(幻冬舎文庫)
静かな日常の中に、恋の光がきらりと灯る。
“恋愛は生活の延長線上にある”と気づかせてくれる、
心をやわらげる一冊です。


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