誰にも届かない声なんて、ないと思えた。『52ヘルツのクジラたち』町田そのこ

届かない声を抱えた人に寄り添うメッセージを込めた、町田そのこ『52ヘルツのクジラたち』レビューのイメージ 本の紹介

1. なぜ『52ヘルツのクジラたち』は今、読まれるべきなのか

町田そのこさんの小説『52ヘルツのクジラたち』は、「自分の声が誰にも届かない」と感じている人にこそ読んでほしい一冊です。現代社会には、虐待やヤングケアラー、LGBTQ+などの深刻な社会課題があふれています。この物語は、それらの問題を”自分ごと”として捉えさせてくれる力を持っています。

主人公・三島貴瑚が出会う少年「ムシ」は、親から虐待を受け、自分の名前すら奪われた存在。その叫び声はまさに、誰にも届かない52ヘルツのクジラのようでした。けれど、その”声”を聴こうとする人がいたからこそ、希望が生まれます。この物語は、そんな“届かない声”に寄り添うやさしさと希望を描いています。

2. 虐待・ヤングケアラー・性の多様性――リアルで重たいテーマに正面から向き合う

『52ヘルツのクジラたち』の魅力のひとつは、社会問題をリアルかつ丁寧に描いている点です。虐待の描写はかなり詳細で、読者に強い衝撃を与えますが、それこそが現実を伝える手段にもなっています。

また、登場人物のアンさんは性同一性障害を抱えています。彼女自身も孤独を抱えていましたが、「抱え込んじゃダメ」という強いメッセージを発する存在として、貴瑚や読者に大きな影響を与えます。社会的に見落とされがちな孤独や苦しみに、丁寧に光を当てているのがこの作品の大きな特徴です。

3. 「魂の番」という言葉が教えてくれる、人とのつながりの希望

この小説の中で繰り返し登場する言葉、「魂の番(つがい)」。それは、恋人でも家族でもない、自分の魂と深く結びつく存在を意味しています。

貴瑚とムシ、そして貴瑚とアン。血の繋がりではないけれど、お互いを理解し合い、助け合うことで生まれた関係。それはまさに「魂の番」でした。人と人がつながることの本質とは何か――その答えを、この物語はやさしく教えてくれます。

4. 「もう誰にも頼れない」と感じたときに手に取ってほしい

登場人物たちは皆、心に深い傷を抱えています。特に主人公・貴瑚は、幼少期に両親を失い、孤独の中で大人になりました。東京での生活に終止符を打ち、大分の海辺の町で新たな人生を始めた彼女が出会ったのは、「ムシ」と呼ばれた虐待を受ける少年でした。

ふたりは、同じように親から傷つけられた過去を共有する者同士。だからこそ、無言のままでも理解し合える瞬間がありました。自分の声が届かないと感じている人にとって、この物語の中で描かれる静かな対話は、きっと深く響くはずです。

5. 「届かない声」が届いたとき、世界は少し優しくなる

物語を読み終えて感じたのは、「幸せすぎてごめんなさい」という気持ちでした。自分がいかに恵まれてきたか、そしてそのありがたさに気づかず過ごしてきたことが、胸に迫ります。

でも、この物語は罪悪感を与えるために書かれているわけではありません。「声を聴くこと」「耳を傾けること」が、どれだけ大切かを思い出させてくれるのです。無力でも、誰かのそばにいようとすることが、世界を少し変えることだと教えてくれました。

6. 「あなたの声を聴かせてほしい」と言える社会へ

作中では、誰にも届かないと思っていた声が、ある日誰かに届き、救われる瞬間がいくつも描かれます。これは小説の中だけの出来事ではなく、現実でも起きるべきことです。

あなたが今、声をあげるのが怖かったとしても――誰かがきっと、それを受け止めてくれる。『52ヘルツのクジラたち』は、そんな優しい希望を胸に残してくれる一冊です。孤独や痛みを抱えている人にとって、間違いなく”救い”となるでしょう。


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